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Highlighting JAPAN

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特集日本の食

Light of Japan〜美しい料理たち(仮訳)

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1月26日、スイス連邦のダボスで開催された世界経済フォーラム(WEF)2012年年次総会(ダボス会議)のサイドイベントとして「ジャパン・ナイト」が行われ、東北地方の山形県のイタリア料理レストラン「アル・ケッチァーノ」のオーナーシェフの奥田政行氏、岩手県のフランス料理レストラン「ロレオール」のオーナーシェフの伊藤勝康氏が参加した。また、パリ、東京、台北で計10店舗を持つパティシエの青木定治氏は、ジャパン・ナイトにお菓子を提供した。この3名に、ジャパンジャーナルの澤地治が話を聞いた。

奥田政行氏

──奥田さんは、ジャパン・ナイトの料理の総監修をされましたが、どのような料理を出されたのでしたでしょうか。

奥田政行氏:東日本大震災からの東北の復興を願い、主に東北の食材と、現地で入手した食材を使った約40種類の料理を出しました。例えば、山形の郷土料理である芋煮などの東北の郷土料理、グリッシーニに宮城県の特産の笹かまぼこを載せて焼いた料理などのクリエイティブ料理などです。

約600名の方が来場しましたが、皆さん非常に料理を楽しんでいらっしゃいました。東日本大震災後も、日本食への関心は高いと思いました。

──奥田さんは、「アル・ケッチァーノ」で山形県の食材を使った料理を出されていますが、山形県の食材の特徴は何でしょうか。

食材の多種多様性です。山形県、特に庄内地方は、夏暑く、冬は寒いので、雪に弱い野菜や柑橘類以外の作物がほとんど育ちます。また、庄内でしか栽培されていない在来野菜が約70種、天然の野草や山菜が80種以上あります。そして、海には約140種類の魚貝類がいます。私がレストランで使う食材のほとんどは、レストランから半径30キロ以内で調達しています。このように、新鮮な海と陸の食材を、組み合わせて料理を作ることができる場所は、世界的に見ても非常に珍しいです。

──料理を作るときに、どのようなことに注意しているのでしょうか。

例えば、日本の野菜の特徴はみずみずしいことと、香りが繊細で、豊かであることです。その良さを殺さないために、野菜をソースで絡ませたりすることはしません。また、肉にも、ソースを掛けるのではなく、その肉に合う野菜を組み合わせます。

また、料理にいらっしゃる方の年齢、性別、体格に合わせて、料理の内容や調理方法を変えます。例えば、高齢者には、脂身の少ない肉に、消化を助ける野菜を添えます。

その時に、お客さんが欲しいと思う料理を出すと、お客さんは美味しいと感じてくれるのです。私は、相手の欲しい料理が出せる、ドラえもんのようなシェフになりたいのです。

──今後の予定をお聞かせ下さい。

3月にはスペインのマドリードで開催された国際グルメ博に参加して、日本の食材の素晴らしさをアピールしてきました。国内では、三重県、千葉県、そして5月にオープンする東京スカイツリーに店をプロデュースする予定です。スカイツリーの店は、日本全国から一級品の食材を集めて調理する料理店になります。ここでは、日本人だけではなく、海外の方々にも直接、日本の食材の質の高さを味わって欲しいです。

伊藤勝康氏

──ジャパン・ナイトでは、どのような日本食が好評でしたでしょうか。

伊藤勝康氏:例えば、餅の上にスイスのチーズを載せて、日本から持参した岩手県の南部鉄器のフライパンで焼いた料理は好評な料理の一つでした。南部鉄器に載せたまま餅を出したのですが、皆さん次々に食べていました。

私の店のロレオールでは、ほとんどの料理で南部鉄器を使います。蓄熱性が高く、あまり温度が上下しないためか、肉も魚も非常にふっくらと焼けます。野菜も非常に甘くなりますし、色止めなしでも、長い時間、野菜の色が変わりません。

──伊藤さんは、岩手県産の肉、魚、野菜などの食材を活かした料理を作られていますが、例えば、どのような料理を作っているのかお教え下さい。

ロレオールで使う代表的な食材の一つが岩手県で肥育される前沢牛です。飼料となるワラの質の高さ、そして、非常に手間をかけた飼育により、通常の牛よりも非常に香りの良い肉となっています。前沢牛のステーキをロレオールで出していますが、前沢牛をより多くの人に味わって頂くために、地元の女性グループと、前沢牛を使ったコロッケも開発しました。ほとんど機械を使わずに、地元の人々の手作りによるコロッケは、スーパーや高速道路のサービスエリアや、通信販売などで、岩手県内外で販売され、大ヒットしています。

──伊藤さんは、調理の時に、どのような工夫をしているのでしょうか。

ブイヨンやスープの作り方などはフランス料理の基本は守りつつも、バターやクリームをたっぷり使って調理することは、あまりしません。岩手の食材の美味しさを活かすためには、南部鉄器でシンプルに焼く、あるいは煮るといった方法が良いのです。

私は自分の料理を「岩手フレンチ」と呼んでいます。先日も在日フランス大使やフランスの国会議員に東京から来店頂きましたが、非常に美味しいとおっしゃっていただきました。

──今後の目標をお聞かせください。

岩手県の農業、漁業、流通などの業者と協力して、岩手県の食材を使った料理や加工食品による地域振興です。例えば、岩手県の中央を南北に連なる北上山地沿いには、りんご、ぶどうなどの果物のすばらしい産地があります。道沿いに、そうした果物を食べられるレストランや、ワインを作るワイナリーがある「フルーツの回廊」を形成し、観光に結びつけるのです。海外の方々にも是非、岩手の自然、食を楽しんで欲しいです。

また、子ども向けのフランス料理の本を書きたいですね。子どもに食への興味を持たせることは、岩手、日本の将来にとってとても重要なのです。子ども向けの本を書くことは、言わば「未来への投資」です。

青木定治氏

──青木さんは、抹茶、柚子など日本の食材を使ったお菓子で有名ですが、日本の食材を使うようになったきっかけを教えて下さい。

青木定治氏:私は1991年にパリに渡り、いくつかの店で修行をした後、1998年に、始めて自分の店を持ちました。幸い、店を始めると直ぐに、ミルフィーユ、エクレア、マカロンなどのお菓子が、非常に高い評価を受け、たくさんのお客さんが訪れるようになりました。すると、ある時、常連の80歳代のお爺さんから、「君は日本人なのだから、日本の特徴を活かしたお菓子を作ってみては」と勧められたのです。そうして、2001年頃から抹茶や柚子を使ったお菓子を店に出し始めると、フランス人から大好評を得たのです。今では、日本の食材は、フランスの多くのパティシエに受け入れられています。

──日本の食材を使うに当たって、心がけていることはありますか?

日本各地の料理を、できる限り食べるようにしています。料理屋だけではなく、デパートの食料品売場にも行って、売り子の人に話を聞いたりもします。最近も、京都にある原了郭というお店の黒七味を、お菓子に取り入れました。

今は、日本酒に注目しています。東日本大震災の復興支援のボランティアとして、東北地方に住む菓子職人向けにケーキ作りの講習会を行っているのですが、東北に行くといろいろな日本酒や、原料となる麹やお米を味わう機会があります。その時に、日本酒をそのまま使うのではなく、酒粕をショコラに練り込んで使うと面白いのではと考えたりしました。また、できる限り直接お客様の声を自分で聞くようにしています。パリの店で試作中のお菓子を食べて頂いて感想を聞いたりもします。そうしたことは、あまりフランス人のパティシエは行いません。

将来、料理の辞書に自分の名前が、「パリで日本の素材を使ったお菓子を広めた人物」として載るように、これからも人々の記憶に残るようなお菓子を作っていきたいです。

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