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Highlighting JAPAN

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特集世界に広げる「ライフ・イノベーション」

世界に広がる母子手帳(仮訳)

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日本は世界で最も乳児死亡率、妊産婦死亡率の低い国の一つであるが、その背景の一つに、母子手帳の制度を取り入れたことが挙げられる。近年、日本は、この母子手帳の制度を開発途上国で構築することに力を入れている。ジャパンジャーナルの澤地治が報告する。

母子手帳の歴史は、1942年に創設された妊産婦手帳に始まる。この妊産婦手帳により、妊婦が妊娠中に医師等による検診を受けることが習慣づけられ、妊産婦死亡率の低下に貢献した。その後、妊産婦手帳は、子どもも含む母子手帳となり、妊婦の健康状態、出産の状態、子どもの身長や体重、予防接種などの記録を書き込めるだけではなく、乳児への食事、病気、育児方法などの情報が1冊にまとめられている。

日本は開発途上国において、この母子手帳の普及に取り組んでいる。

フィリピンも、そうした国の一つだ。国際協力機構(JICA)は現在、妊産婦死亡と乳児死亡の減少を目的とする「東ビサヤ地域母子保健サービス強化プロジェクト」を2010年から実施、プロジェクトの一環として、母子手帳の現地語への翻訳作業、妊産婦をサポートする保健ボランティアの母子手帳を使った指導能力強化などの支援を行っている。そして、2011年から2012年の2年間の間に、母子手帳は約5万5,000冊印刷され、プロジェクトの対象地域の想定妊産婦全てにいきわたるよう各保健所に配布されている。

「妊婦は、母子手帳を持つことで『赤ちゃんを無事に産むためには、母親である自分が責任をもって行動しなければならない』という、母親としての意識を高めます」とプロジェクトのチーフ・アドバイザーを務める石賀智子氏は言う。「また、妊婦が準備しなければならないお金や物品の用意や確認、検診の計画にも活用されています」

今では、JICAの支援を通じて、インドネシア、中国、ベトナム、ラオス、バングラディシュ、東ティモール、ドミニカ共和国、パレスチナなど多くの国や地域で、母子手帳が広まりつつある。


介護と武術の邂逅(仮訳)

日本社会の高齢化とともに、介護者の身体的負担がクローズアップされている。自宅、あるいは高齢者施設で、高齢者や身体障害者の体を移動させたり、起こしたりする介護において、腰や肩を痛めてしまう介護者が多くいるのだ。

こうした負担を減らすために近年注目を集めているのが「古武術介護」だ。古武術とは、江戸時代(1603-1867)頃までに成立した、侍が戦のために開発した武術である。その古武術の身体の使い方や考え方を介護に取り入れたのが古武術介護だ。

「古武術の攻撃や防御の動きに共通するのは、筋力に頼らず、身体に負担をかけない動きであるということです」と岡田慎一郎氏は言う。「古武術介護は、古武術の動きを参考に、介護者が身体を合理的に動かすことで、無理無駄な力を入れることなく、被介護者の介護を可能にします」

 例えば、古武術介護の基礎的な動きの一つに「手のひら返し」がある。被介護者を抱える時に使用する技法で、上体起こし、立ち上がり、座らせるなど、様々な動きに応用が効くものである。具体的な手順は以下の通りだ。介護者が手の甲から被介護者の体を抱えると肩から背中にかけて適度な張りが生じる。この張りを保ったまま、介護者は手首の先を返す。すると、腕と背中が連動することで全身の動きが引き出され、少ない負担で被介護者を抱え介護することが出来るようになる。

 岡田氏は、高齢者施設などの介護福祉士を務めながら、従来の介護方法に代わる方法を模索する中で、武術家の甲野善紀氏が実践する古武術を学び、2004年、古武術介護を提唱した。現在では、医療施設、介護施設や一般向けのセミナーで、毎年約250回、累計10万人以上に古武術介護を伝えている。参加者からは、「介護が楽になった」、「腰痛が改善した」という声が数多く寄せられている。

「古武術介護の動きは介護だけに役立つだけではありません。赤ん坊を抱くとき、重い物の持ち上げる時など、合理的な動き方は日常生活でも活用できます」と岡田氏は言う。「また、私が書いた古武術介護の本が英語で翻訳される計画があります。高齢化が進む世界において、介護技術のみならず、介護予防のヒントとしても広がる可能性があると思います」

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