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Highlighting JAPAN

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連載|日本の博物館・美術館

清春芸術村(仮訳)

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ツリーハウスの茶室。巨大な親指の彫刻。風にたなびくフランスのトリコロール国旗で終わる黄色に塗られたらせん階段… 多様性のある魅惑的な考察の場となっている清春芸術村を、ジュリアン・ライオールが紹介する。

清春芸術村は、日本と海外の芸術家交流を促進し発展させることを目的として、1983年に美術商の吉井長三氏によって創設された。この芸術村の基礎は1910年に勃興し志賀直哉、武者小路実篤、柳宗悦、長与善郎といった面々が関わった文学運動の白樺派に根ざしている。白樺派は、西洋美術を高く評価し、自分たちの著作を通して西洋の美術と文学を日本の社会で広めていった。この芸術村は、彼らの夢の集積であるかのように思われる。

東京とパリで画廊を営んでいる吉井は、多くの外国人芸術家が日本を訪れ、作品制作に取り組んでみたいと望んでいるにもかかわらず、日本にはそういった制作施設が少ないという現状を聞き、ならば自分がその場所を作ろうと決意した。そして、約30年前にこの芸術村が生まれた。清春芸術村は、東京から北西に二、三時間ほど離れた山梨県の八ヶ岳南麓に位置している。レンガ造りの集合アトリエである「ラ・リューシュ」は、どの方向からも絶景が望める16面体構造となっている。

庭園には、人目を引く作品が点在しており、ベラルーシ出身の芸術家オシップ・ザッキンによる巨大な石の彫刻は、船を抱えた現代風の人物像である。その近くには、錆びた金属加工物を融合した抽象表現アーティストのジャック・ヤンケルによるインスタレーションがある。

ラ・リューシュの裏手には黄色の螺旋階段があるが、その基礎部分には金属片から作られたセザール作の人物像があり、広げた手に金属の鳥がとまっている。階段に掲げられたプレートによると、これは1889年にエッフェル塔が建造された時に使われた実物の部品だという。

芝生の一番端の角には、山梨県指定天然記念物として保護されている桜の木々に囲まれた、化粧しっくい壁のツリーハウスが地上高4メートルの桧の木の上に建てられている。訪問者は、はしごをよじ登り建物の底にある穴を抜けてようやく茶室の中へ入ることができる。

この芸術村の最新の見どころは、2011年4月にオープンした安藤忠雄設計による「光の美術館 クラーベ・ギャラリー」である。その名前からも分かるように、このギャラリーにはスペインで最も有名な芸術家の一人であるアントニ・クラーベの作品が収蔵されている。展示作品の中には、クラーベ初期の油彩画や、コラージュ作品、彫刻作品など目を見張る作品がある。

清春白樺美術館の前には、白樺の木々の中にルオー礼拝堂がたたずんでいる。入口の上には深い赤と緑のルオー自身が彩色したステンドグラス窓が備わっている。チャペルの丸い壁面には、それぞれ美術館が所有するジョルジュ・ルオー作品のコレクションから選ばれた絵画が掲げられている。

さらに少し進むと、日本様式の庵がある。これは梅原龍三郎が使っていたアトリエで、東京・新宿の加賀町から移築された。イーゼルに立てかけられたキャンバスや絵の具、ポット、ブラシが、 まるで本人がその場からわずかの間離れて今すぐにでも戻ってくるかのように配置されている。

ニューヨーク近代美術館の増築を手掛けた谷口吉生設計の清春白樺美術館は、収蔵されている名作の持ち味を最大限引き出せるよう自然光を採り入れている。この美術館の展示作品には、白樺派の作家の作品の他にも、フランスの宗教画家ジョルジュ・ルオーの作品や中川一政、梅原龍三郎といった日本人画家の作品も展示されている。また現在、大胆でカラフルな画風が特徴のベルナール・カトランの回顧展が6月下旬まで開催している。本稿執筆者は、オーギュスト・ロダンのブロンズ像に最も感銘を受けた。中でも、目元のしわまで詳細に描写されている有名なフランス人小説家オノレ・ド・バルザックの胸像は見物であった。

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