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Highlighting JAPAN

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特集環境に優しい次世代交通システム

世界に広がる日本の輸送技術(仮訳)

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日本で開発された環境に優しい輸送技術は、海外の数多くの都市で採用され、交通環境の改善、ひいては都市環境の再生にいかに生かされている。山田真記がレポートする。

ニューヨーク:未来のタクシー

2013年10月以降、米ニューヨーク市内を走行している16車種のタクシー(有名なイエローキャブ)全てが、日産自動車株式会社のコンパクトバンNV200の1車種に統一されていく。

ニューヨーク市は、タクシー車輌の刷新と統一に当たって次の5つの要件を示した。1.これまでにない革新性と快適性を実現すること、2.最新の安全性能を確保すること、3.環境へのインパクトを低減すること、4. 道路上での専有面積を最小化すること、5.誰でも使いやすいユニバーサルデザインを追求すること。NV200はこれらの要件を全て満たしたのである。

NV200はコンパクトな車体で圧倒的に広い足元スペースを確保しており、ニューヨークの街並みを楽しむための透明なパネルのパノラミックルーフを装備。読書灯や大型モニター、USBプラグまで備えられている。そして、前席、後席の両方にSRSカーテンエアバックシステムを搭載。また、不意なドアの開閉による歩行者や自転車、自動車等へのリスクを軽減するためにスライドドアを採用することで、スムーズな乗降を可能にしている。さらに、車のサイズはコンパクトに設計されているため、道路上での専有面積を削減することもできる。また、従来のタクシーと比べて燃費が約30%改善されており、CO2の低減にも大いに貢献することになる。

ニューヨーク市は、市内を走る約1万3千台のタクシーを5年かけて全てNV200に切り替える計画を立てている。また、将来構想として、タクシーの電気自動車(EV)化も視野に入れ、今年からは、すでに米国でも市販しているEV「日産リーフ」6台をニューヨーク市内でタクシーとして試験的に走行させている。

2050年には、世界の人口の70%が都市に集中すると予測されている。このような極端な都市化が進む中、ゼロ・エミッション社会を構築することは現在よりもはるかに重要なテーマになってくるだろう。日産は、最先端のゼロ・エミッション技術を生かした自動車を開発し普及させることで、持続可能なモビリティ社会の実現へ貢献を続ける。


デリー:地下鉄が都市を変える

近年、経済成長が著しいインドでは、各地で急速な都市化が進んでいる。中でもデリー首都圏では人口がおよそ1,700万人まで膨れあがり、なお人口増加の一途をたどっている。こうした一方で、市民の足となる都市交通システムが未整備のまま、経済成長に伴って個人所有の自動車が普及したため、デリーでは道路の慢性的な渋滞と、自動車の排気ガスによる大気汚染が重大な問題になっていた。このような状況を重く見たインド政府が打ち出したのが「デリー地下鉄建設計画」だった。日本政府はインド政府の要請を受け、国際協力機構(JICA)を通じて円借款の供与と技術支援を決定。JICAは計画段階から16年間にわたり、デリーメトロの建設を支援してきた。そして2006年11月に開通したデリー中心部をカバーするフェーズ1に続き、2011年8月にはデリーから周辺部への延伸路線のフェーズ2全線開通が達成された。JICA南アジア部の林昇平氏はこう話す。

「フェーズ2全線開通により、デリーメトロの総延長距離は190kmとなり、東京メトロとほぼ同規模のメトロネットワークが構築されました。現在は1日当たりの乗車人数が約180万人に達するなど、デリーメトロはすっかり市民の足として定着しており、利用者からの評判も上々です。決まった時間にメトロに乗れば、決まった時間に会社や学校に着く。渋滞に巻き込まれたバスを利用していた時と比べると本当に便利になった、といった声が多く聞かれますね」

JICAはこれまで、チェンナイ、バンガロール、コルカタといった他のインド国内の都市でも地下鉄建設の支援を行ってきたが、デリーメトロ事業は、国連CDM理事会により、鉄道事業では世界で始めてクリーン開発メカニズム(CDM)事業に登録された。CDM理事会が注目したのは、日本の地下鉄車輌で活用されている省エネ技術である「電力回生ブレーキ」をデリーメトロに導入した点であった。電力回生ブレーキとは、ブレーキ作動時に発生する列車の運動エネルギーを電力に変換する技術だ。これにより、通常の車両を用いた場合に比べ33%の電力が節約され、年間約4万トンのCO2削減が可能となるのだ。

デリーメトロの開通により、慢性的な渋滞は緩和され、街の表情は大きく変わった。そしてJICAでは、次のステップとしてインド最大の都市のひとつムンバイでの地下鉄建設計画の検討がすでに進められている。またその他に、インドネシアの首都ジャカルタ市、ベトナムのホーチミン市でも同様の事業が進行中だ。


重慶:モノレールという選択

海外で日本の鉄道技術が生かされている事例は地下鉄ばかりではない。ここでは、中国・重慶市で実施された、中国初のモノレール建設事業に注目してみよう。

重慶市は、中国西南地方における最大の工業都市で、デリーと同様、経済活動の急速な進展によって、都市部の交通渋滞や、大気汚染など生活環境の悪化が大きな問題となっていた。重慶市は当初、これらの問題を解決するための軌道系交通機関として地下鉄(1号線)建設を計画していた。そんな折、日本の街中を走るその姿がヒントとなり、モノレールも採用されることとなった。モノレールは、都市部の基幹交通として機能するばかりでなく、重慶市特有の観光資源にもなると考えられたのだ。

重慶市は、モノレール(2号線)建設計画を打ち立て、日本政府に支援を依頼した。1993年にJICAが現地調査を行い、翌年、日本が対中円借款の拠出を決定。重慶の路線条件に適した、跨座型モノレールの採用が決定され、株式会社日立製作所がシステムの一部を担当した。そして2006年、総延長距離約19kmの2号線モノレールが開業し、2011年には、3号線約40kmも開業した。

軌道系交通機関としてのモノレールの特長を、社団法人日本モノレール協会理事の石川正和氏はこう話す。

「モノレールは、安全性が高く快適な乗り心地であること、そして都市形態や需要量に応じてバリエーションに富んだ路線選定が可能であることが特長として挙げられます。そして、都市美観の向上に寄与します。また、地下鉄と比較して建設工期が短く、建設費も少なくて済む点も大きな利点です。さらに環境性能の面で見ますと、重慶市の場合、事前調査によると、バスのCO2排出量が15,926トンであるのに対し、モノレールではその約5分の1の3,074トンに抑えられるとの予測がなされました(2010年の実績予測)」

重慶市では、現在もモノレールの延伸工事を進めており、2014年には総延長距離約90kmという世界でも類を見ないモノレール・ネットワークが構築される予定だ。重慶市での成功を1つの足がかりとして、日立製作所ではシンガポールやアラブ首長国連邦のドバイでもモノレールシステムを納入している。

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