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Highlighting JAPAN

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連載|科学・技術

きれいで、安全な水をいつでも、どこでも(仮訳)

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世界は今、人口の急激な増加、新興国の経済成長などが要因となり、深刻な水不足や水汚染といった問題に直面している。そうした水問題の改善に貢献する、車載式浄水装置が日本で開発された。佐々木節が報告する。

地球上にある水は、約14億立方キロメートルと言われるが、そのうち97.5%は海水だ。淡水は2.5%しかない。しかも、南極の氷や地下水がその大部分を占めるので、人間が容易に使える水は0.01%にしかならない。

このように非常に貴重な水が、世界で多くの問題を引き起こしている。開発途上国を中心とする急速な人口増加、新興国における経済成長といったことが要因となり、水不足や水の汚染といった問題が起こっているのだ。2012年にユニセフと世界保健機関(WHO)が発表した「Global Drinking Water Trends」によれば、7.8億人の人が安全な飲料水を利用できていない。水不足や水の汚染は、貧困や病気の原因ともなっている。特に、上水道の整備が行き届いていない地域が数多く残っている開発途上国おいて、水問題は深刻だ。

こうした地域で、安全な飲み水を供給するために開発されたのが、東京に本拠を置くメタウォーターの車載式浄水装置である。

メタウォーターは水道・下水道やリサイクルのプラントを開発・設計・施工・運営する企業だ。

「これまでも自動車で運搬可能な浄水装置は欧州各国で作られてきましたが、それらではろ過システムに高分子膜が使われていました。私たちは、ろ過システムにセラミック膜を採用しました」と同社国際センターのマネージャーの嶋田博教氏は言う。「その特徴は、高分子膜に比べ、耐久性に優れ、メンテナンスが簡単なことです。しかも、浄水装置の稼働に必要な発電機、ポンプやコンプレッサーなども1台のトラックに搭載していますので、川や湖、池があれば、電気のない場所でも飲料水を作り出すことができるのです」

セラミック膜と聞くと、シート状のフィルターをイメージする人も多いだろうが、メタウォーターのセラミック膜は、直径180mm、長さ1.5m(車載式には長さ1mを採用)の円筒形状をしている。内部にはいくつもの通水路があり、そこに圧力をかけることにより、円筒内の多孔質セラミック層を通して外周部へときれいな水が沁みだしてくる仕組みになっている。ちなみにセラミック層にある微細な孔の径はわずか0.1ミクロン。これが泥やゴミはもちろん、大腸菌などの細菌や危険な原虫類まで取り除いてくれる膜の役割をしているのだ。

「すでに日本国内の多くの浄水場でセラミック膜ろ過システムを採用いただいています。開発当時、最も難しかったのは省スペースを可能にし、浄水量を確保するための膜の大型化でした。直径180mmという大きな口径のセラミック膜があるからこそ、今回の車載式の浄水装置も開発することができました」と嶋田氏は言う。

このセラミック膜の技術は日本各地の浄水場のろ過システムとして20年ほど前から研究されてきたもの。ただし、そもそもメタウォーターの前身は、電信柱や鉄塔の碍子(磁器製の絶縁体=セラミックの一種)を作るメーカーであり、その設立は1919年というから、1世紀近いものづくりの伝統が最先端のセラミック技術に活かされているのである。

「高分子膜を利用した浄水装置は大雨の後の河川水など、高濁度の河川水では使えませんでした。一方、セラミック膜は高強度なので、過酷な状況で使っても損傷することがなく、長さ1mの膜を2本搭載した場合は1日あたり50〜70立方メートルという大量の飲料水を作ることができます。また膜に付着した汚れは、通常時は水と空気だけで洗浄できるので、面倒なメンテナンスも不要です。稼働時の消費電力も少ないです」

こう語るのは同社国際センターの畑聡氏である。畑氏によれば、集落ごとに簡単な貯水槽を設置すれば、浄水装置を搭載した車両を定期的に巡回させることで、広いエリアに安定して飲料水を供給することが可能だという。

メタウォーターの車載式浄水装置は、日本政府の無償資金援助を受け、2013年上旬からマラウイ共和国、ケニア共和国、トーゴ共和国に合計8台が納入される予定だ。上水道のない農村部などでの活躍が大いに期待されている。また、ベトナムやカンボジアなど東南アジアの国々や、地震や台風で被災した地域の給水拠点として利用が可能と考える、国内の自治体などからも問い合わせが来ている。

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