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Highlighting JAPAN

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特集アフリカの成長を育む

アフリカの子どもの未来を開く(仮訳)

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アフリカは、安定的な経済成長を遂げる一方で、貧困問題や教育問題、衛生問題などの深刻な社会問題を抱えている。将来の担い手である子どもの生活環境も厳しい。アフリカでは今なお、安全な飲料水や衛生施設にアクセスできないために、命を落とす子どもが少なくない。また、質の高い教育を受けられないために、安定した仕事を得たり、貧困状態から抜け出す機会を失っている子どもも多い。そうした状況を改善するために、日本が行っているプロジェクトを松原敏雄とジャパンジャーナルの澤地治が紹介する。

手洗いで衛生改善

第二次世界大戦が終わった直後の1950年代、日本では、赤痢などの伝染病が多発していた。そうした中、1952年に創業したサラヤ株式会社(大阪府)は、手洗いと殺菌消毒ができる液体石鹸を日本で初めて開発・販売し、伝染病患者の減少に大きく貢献した。以来、サラヤは、うがい薬やアルコール手指消毒剤などの衛生関連商品を世に送り出し、日本の衛生環境の向上に努めてきた。そして今、半世紀以上にわたって培ってきた衛生事業のノウハウを、アフリカの人々のために活用している。

サラヤが活動を行っているのは、アフリカ東部のウガンダだ。ウガンダの5歳未満の子どもの死亡率は1,000人中90人に上る(2011年度統計)。死亡原因の大きな割合を占めるのが下痢性疾患と急性呼吸器感染症(肺炎)だ。これらは、適切なタイミングで石鹸を使って手を洗えば、その死亡率を大幅に減らすことが可能な病気である。

2010年、サラヤはユニセフと協力し、手洗いの普及によって、子どもの命を守る「100万人の手洗いプロジェクト」を立ち上げた。そして、手洗いの啓蒙活動、簡易手洗い設備の設置、正しい手洗いを広めるボランティアスタッフの育成を進めた。その結果、3年間で、ウガンダの40県で100万人を超える母親が正しい手洗いを学び、120万基の簡易手洗い設備(ポリ容器あるいは金属製のタンクに水を入れ、簡単な水栓が付いた装置)が設置され、40県の13,500村でボランティアスタッフが育成された。プロジェクトは、「手洗いを始めてコレラが減りました。もうコレラで休んでいる児童はいません」といった小学校の先生の声に代表されるように、伝染病の減少に貢献している。今年から、プロジェクトの対象地域が107県に拡大され、さらに多くの人々の衛生環境改善を目指している。

サラヤは、「100万人の手洗いプロジェクト」の活動に加えて、持続的な衛生環境の改善をビジネスによって達成するという目的のもと、2011年5月にSARAYA EAST AFRICAをウガンダに設立した。社長に就任したのが、青年海外協力隊の活動を経て、小口の資金を農民などに融資するマイクロファイナンスのNGO 「AISUD」をウガンダで運営している宮本和昌氏だ。

「限られたリソースの中で、持続可能な活動を行うためには、出来る限り市場原理にのっとって進めるのが良い方法です」と宮本氏は言う。「ウガンダは人々の経済活動も活発で、ビジネスとして衛生事業を広げるには、非常にポテンシャルの高い国だと思います」

SARAYA EAST AFRICAはまず、JICAの支援を受け、ウガンダの病院におけるアルコール手指消毒剤の普及調査を行った。

ウガンダの多くの病院では、水が不足しているために、石鹸での手洗いが充分に行われていない。また、トイレも水が流せず、不衛生な状態となっている病院も多い。そのため、マラリアで入院した子どもが、入院中に下痢性疾患にかかることも少なくない。また、出産直後の母親が敗血症になり、死亡することも多い。アルコール手指消毒剤は水がなくても殺菌を出来るという大きなメリットがあるが、ウガンダでは高価な輸入品しか手に入らず、普及が進んでいない。

普及調査では、ウガンダの二つの公立病院で、テストとして日本製のアルコール手指消毒剤を導入し、医師や看護師など医療関係者に、その使用方法を指導している。そして、食事の前、トイレに行った後には、アルコール手指消毒剤で必ず手を消毒することを徹底した。

すると、アルコール手指消毒剤を導入してからわずか半年で効果が現れている。普及調査を実施した病院の看護師によれば、下痢にかかる子どもが、目に見えて減少したという。また、アルコール手指消毒剤の導入前は、月に4〜5件、出産後に敗血症で母親が亡くなっていたが、現在は、敗血症で死亡する母親はゼロになったと病院長が証言している。

「看護師は、『アルコール手指消毒剤は非常に素晴らしい』と、喜んで使ってくれるようになりました」と宮本氏は言う。「さらに、看護師が自主的に、入院患者の付き添いをしている人にも、アルコール手指消毒剤で手を消毒することを教えるようなりました」 

SARAYA EAST AFRICAでは現地の製糖会社と提携し、ウガンダ産のサトウキビから抽出した高純度のエタノールを使い、高品質なアルコール手指消毒剤の生産を年内に始める予定だ。ウガンダで生産することで、コストを抑えるだけでなく、現地の雇用創出にもつながる。

「最初は公立病院を中心に販売をすることを考えています。その後は、学校や一般家庭にも広げていきたいです」と宮本氏は言う。「それにより、一人でも多くの救える命を救っていきたいです」


理数科の強化

ケニアは1990年代、工業化を推進し、持続的発展を遂げるために、国家計画として、中等教育での理数科教育の強化を掲げた。そこで、それまでに理工系高等教育などの支援を受けていた日本政府に対して、ケニアは中等理数科教育改善に対する支援を要請、JICAはケニア教育科学技術省と協力し、1998年から「中等理数科教育計画プロジェクト」(SMASSE)を始めた。

「教科を問わずケニアで見られる典型的な授業はChalk & Talkと呼ばれる教師中心の授業であり、理数科の授業も例外ではありませんでした。ケニアの理数科の授業は、教員が黒板に板書し、生徒に一方的に説明するという教師中心の授業であり、この授業方法では、生徒の興味を引き出すことは難しかったのです」とJICA人間開発部の小森明子氏は言う。「こうした教員中心の授業を、生徒中心の授業へと変えることが、SMASSEプロジェクト開始の大きな目的の一つでした」

日本の中学校の理数科教育は、生徒の興味を引き出すため、また、生徒が自分自身で考える力をつけさせるために、実験等に重きを置いている。また、教員自らが生徒の理解を促す教材を開発したり、あるいは、教員同士が協力し、授業方法を改善するといった工夫もしている。

こうした日本の理数科教育を参考に、SMASSEはケニアの理数科教育の改革を行っている。そのための最も重要な活動は、現職教員への研修だ。ナイロビにあるアフリカ理数科・技術教育センター(CEMASTEA)では、日本から派遣された専門家が、ケニア側教育行政機関と協力して、教室での指導法改善とそのために必要な現職教員研修制度を構築することを目指し、ケニア人カウンターパートに対して専門的見地から助言したり、技術指導を行っている。

CEMASTEAでは、中等レベルの現職教員に対して研修を実施す教員を約1-2週間にわたって研修する。そして、CEMASTEAで研修を受けた教員が、地方に計108カ所ある公立中学校で教員を研修している。この方法によって、現在までに約2万人の中学校の理数科教員が研修を受講した。2010年からは研修対象が小学校高学年の理数科教員にも広げられており、約6万人の小学校高学年の理数科教員を対象に研修が実施されている。

研修では身近なものを使った理科実験方法や教材作成が教えられている。例えば、コップの底に置かれ、見えなかったコインが、水を注ぐことで、視線を変えなくても、見えるようになるという現象で光の屈折を学ぶ、あるいは、ペットボトルの中に風船を入れ、その風船を膨らませたりしぼませたりすることで、人間の肺呼吸の仕組みを学ぶといったことだ。身近なものを実験道具として工夫する方法は、高価な資機材を揃えることが難しいアフリカの現状に即したものである。

研修を受けた教員からは、「教材をどのように使って教えれば良いのかが分かった」、「生徒の反応をどうやって引き出すかが分かった」など、授業の実践に役立ったという声が寄せられている。

ケニア側のオーナーシップを尊重するために、研修では、基本的にケニア人が講師を務め、JICAの専門家は、あくまで、そうした講師にアドバイスをするという立場だ。また、ケニアでは日本から派遣された青年海外協力隊が小学校や中学校で、理数科の授業を受け持っているが、そうした協力隊員が、研修を受けた教員の授業を評価し、改善のアドバイスをするといったことも行われている。

「研修を受けた教員の授業を受けて、数学が好きになり、大学にも合格したという生徒もいるようです」と小森氏は言う。「教員にとって、生徒が自分の授業によって、その教科が好きになってくれる程、嬉しいことはないそうです」

ケニアで始まったSMASSEは、ケニア以外でも関心を呼び、2001年に、アフリカ域内のネットワーク、SMASSE-WECSAが設立された。SMASSE-WECSAには現在、オブザーバーも含めアフリカの35カ国が加盟しており、加盟国の教員へのケニアでの研修、加盟国間の知見・経験の共有のための会合、あるいは、ケニア人講師の加盟国への派遣などが実施されている。

「SMASSEの成功により、教師の創意工夫を促すことで生徒が主体的、積極的に参加できる授業が行われるようになり、さらに生徒の学習意欲の向上や理系科目の選択者数の増加などが見られました。また、ケニア政府は現職教員に対する研修の義務化を決めています。SMASSEはケニアの自立発展性を高めることにつながったと言えます」と小森氏は言う。「JICAとしても今後、アフリカへの基礎教育支援を続けていきたいと考えております」

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