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Highlighting JAPAN

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特集:暮らしやすいまちづくり

オンパク:再活性化のための処方箋



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日本人は略語が好きである。コンビニ(コンビニエンスストア)、スマホ(スマートホン)、さらにはアラフォー(アラウンド・フォーティ)などという略語さえある。我々が最近使い始めた略語に、「オンパク」という言葉があり、これは「温泉泊覧会」の略である。しかし、このオンパクは、単なる略語には留まらない。それは、温泉地に滞在することが日本の伝統を体験し認識する絶好の機会になりうるという深い意味を持っているのだ。

このオンパク運動は、行楽客の減少および旅行者の滞在期間短縮傾向による地域経済先細りの危機感から、2001年に大分県別府市で始まった。欧州において伝統的な食文化が大切にされているように、オンパク運動の創始者たちは、温かいもてなしの心と、滞在に一層の趣を添える伝統文化を、旅行客に対して伝えようとした。この目的で、地元の伝統芸能継承者による特別な演芸会や地元の工芸職人の指導による個人を対象とした体験会などを開催している。

オンパクの目的は、様々なことにこだわる傾向のある都会居住者が好む均一で質の高い旅行体験を、地方自治体において提供することにある。サービスの一貫性、巧みに配置された古俗や伝統の魅力、専門性に裏付けられたマーケティング等のいずれもが、旅行者が全く新たな視点からオンパクイベントに参加することに寄与している。即ち、かつては当たり前だった体験を特別なものに変化させ、現代の多忙な日常においては触れることのできない本物の体験に対して旅行者がより多くの代価を支払うようにできることを意味している。

結果として、運動の創始後10年を過ぎた今、オンパクは創始者グループの想定をはるかに超えた広がりを見せている。地元の寺での座禅教室や陶芸教室など、旅行中に体験できるイベントは100を超えるが、それに留まらずこの運動は日本全国で実を結んでいる。オンパク運動に参加している自治体は33を数え、参加検討中の自治体も多い。

別府において開催される数多くのオンパク伝統イベントの中で、市の中心部から離れたある工芸店で開かれる陶芸教室は特に人気が高い。大分県は、温泉だけではなく、陶芸でも良く知られているのだ。この教室では、陶土、用具、窯の使い方を学び、自分で陶器の皿を作ることができる。その後、地元の畑で収穫した春野菜を使った和風ランチを楽しむこともできる。

オンパク運動の初期は試行と学習の連続であったが、これにより結果的に方法論の確立に成功し、この運動を他の町にも同様に広げることができるようになった。実際、この運動の素晴らしい点は、新たにオンパクを開始した町において、リーダーや参加商店主たちがこの運動の概念や指針を実行に移すに従って、町の状況が驚くほどの大きく変化することにある。このようなメカニズムとその確実性により、この運動は日本財団や経済産業省などの支援を受けて成長した。

オンパク運動とは何か?

基本的には、一般の人々に対して豊かでより価値のある体験を統一的に実現するべく考えられた5つの段階からなる。「オンパク手法」の最初の段階‐認知‐においては町の事務局を設立し、参加者の教育と訓練に関するすべての手配調整とマーケティングに関する手配調整を行う。事務局を置くということは、自治体の主たる方針決定者がこの運動の概念を認知し、成功に向かって共同作業が開始されることを意味する。

第二段階‐社会環境整備‐においては、成功に至るための協力態勢を確立する。これには、指導および調査担当グループによる、この運動で最も重要な資源、即ち人材の開発、サービスの開発、財源確保が含まれる。オンパクに参加予定自治体には、この運動を正しく理解して広げていくために、発祥地の別府市から指導者が派遣される。

第三段階‐立上げ準備‐においては、助言を行う指導者を任命し、向上すべきところを定める。指導者は、それらの向上すべきところにおける弱点の克服を図る。新たに任命された事務局担当者がマーケティング素材(ガイドブック、ウェブ等)の作成を開始し、提供するイベントやそのスケジュール、その他の運営上の問題点に関する検討を始めるのもこの時期である。

第四段階は、立上げである。この段階では、ツアーや体験イベントの具体的内容が決められると共に、それが十分な基準を満たしているかに関する厳密な検査方法が定められる。その町における運動が成功するか失敗するかの岐路がこの段階であり、発生した課題や問題点を克服するためには一致結束が重要である。

最後の段階は、評価と改善である。参加者たちは一体となり、それまでがうまくいっていたとしてもそれに満足することなく、成功に向かって努力を続ける気概を持っていることを示さなければならない。旅行客は自由気ままなので、継続的な進歩がなければすぐに他の観光地に移ってしまうものだ。

オンパクの主導者たちは、これまでに様々なことを学習してきた。かつては互いに競っていた自治体同士が、今では共通の指針の下に協力し、その結果驚くべき成果を上げている。即ち旅行客が戻り始めたのだ。旅行客が満足して帰ると、再発見した日本の伝統について友人に情報を伝えると考えられ、それが経済効果をもたらしているのだ。これは、日本の伝統文化を再び活性化する優れた処方箋なのだ。



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