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Highlighting JAPAN

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世界遺産・富士山

富士山の顕著な普遍的価値の保護 (仮訳)

新たな世界遺産地域における環境および保全活動



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富士山は日本人にも外国人にも極めて人気の高い旅行目的地だ。その一方で、多くの登山者や観光客が富士山に与える影響や負荷を軽減するため、富士山地域における環境の健全性を保護する持続的保全計画が必要となっており、富士山の適切な保全管理が求められている。

2カ月間の夏季登山シーズンの間、約30万人の人々がこの山に登る。富士山には登山者が一泊できるロッジや、疲れた人が飲み物とともに一息入れる休憩所、軽食のとれるレストランなど、数多くの施設が設置されるとともに、ブルドーザーを使用して登山道を良好な状態に保っている。その一方で、周辺地域には観光客向けにゴルフコースやホテル、スキーのゲレンデ、そしてもちろんハイキングコースなど、さまざまな便利な環境が整っている。7月と8月は富士山頂に郵便局まであり、山頂から出された家族や友人宛の手紙やハガキを届ける配達員がいるというから面白い。世界遺産登録に伴って今後旅行者がさらに増えると予測され、地域の保全活動と旅行目的地としての関心の高まりをいかにして適切に均衡させるかがユネスコの最大の関心の一つとなっている。自治体、県、及び国レベルの行政では、歴史的・文化的に貴重な観光地を保存する努力を行う一方で、旅行客の当地アクセスをもっと便利にしようという取り組みも進めている。

山梨、静岡両県は、日本のシンボルである富士山を世界に誇る山として、後世に継承するための全国的運動の原点となる「富士山憲章」を1998年に制定した。山の生態系のみならず、富士山周辺の様々な史跡や自然景観を保護する必要が生じているが、それらはこれまで、それぞれの自治体等によって行なわれてきた。

そこで、世界遺産としての富士山を一体として保存管理するため、「富士山包括的保存管理計画」を策定し、資産の保存管理及び周辺の保全を確実に行う体制として、「富士山世界文化遺産協議会」が設置された。これには、環境省、林野庁、国土交通省など国家機関に加え、静岡、山梨両県と両県に属する多くの関係市町が構成員となっており、協議会の調整を行う作業部会には、住民代表者、資産所有者、関係団体も加わっている。また、学術的な調査、協議会への助言を得るため、学術委員会も設置されている。

富士山の上部は、自然を最大限保護するため国立公園特別保護地区に指定されており、自然の生態系に対する人間の影響をできるだけ抑えている。静岡県では、「富士山エコレンジャー」と呼ばれるボランティアの方々が、富士山を訪れる人々に向けて、マナー啓発や富士山憲章の周知、富士山の豊かな自然環境の紹介などを行っている。「富士山が世界遺産になったことで、今後ますます自然環境の保護や保全が必要です。そのため、この活動に対しての周囲の期待も高まっています」と静岡県くらし・環境部環境局自然保護課富士山保全班の方々は語る。道路標識と案内板には4カ国語 (日本語、英語、中国語、韓国語) が使われ、低標高地域では旅行者の関心に沿ったテーマ別のハイキングコース案内標識が設けられている。

富士山は火山であるため標高2,500mを越えると地面は溶岩屑交じりの砂地に変わるが、周囲の山麓では豊かな動植物の生態系が広がる。富士山の水の清澄さ、瑞々しさ、爽快な冷たさは良く知られており、ハイカーは小川や湧水の水を一服の清涼剤として楽しむことができる。水は草木だけではなく、森や野原に生息する多くの鹿や熊、山羊、狸、さらには様々な種類の蝶や鳥をも育んでいる。現在、この地域の野生動物の研究を目的として、生態系の健全性を評価する尺度としての蝶の国際的現地調査を含む科学調査用に基地が数カ所作られている。

富士山は地球の造山活動の傑作である。この霊峰が世界文化遺産として登録されたことは、自然そのものに精神性、宗教性、芸術性を見出してきた日本独自の自然観と文化観が世界に認められたことを意味する。世界遺産登録はゴールではなく富士山を守っていくための新たなスタートである。富士山の環境保護や登山者の安全確保、来訪者の受入など、将来にわたって確実に継承していくための取組が重要な課題といえよう。



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