Home > Highlighting JAPAN >Highlighting Japan December 2013>Japan's technological achievements

Highlighting JAPAN

前へ次へ

日本の輝く技術力~中小企業の革新~

ニッカー絵具

アーティストを陰で支える魔法(仮訳)

English



日本の漫画とアニメは世界中で人気を博しており、日本のポップカルチャーを象徴する存在となっている。

東京都練馬区はアニメーション発祥の地とよくいわれる。絵具製造販売メーカーのニッカー絵具も、まさにこの地にある。多くの一流漫画家やアニメ作家が同社の絵具を使用しており、『となりのトトロ』や『千と千尋の神隠し』など、多くの人々に愛されている映画を手がけた宮崎駿監督も愛用者の一人だ。

創業64年の同社で社長を務めるのは、妻倉一郎氏だ。社長のオフィスには、芸術家や美術学校の生徒たちが描いた絵が飾られている。その中の一つを指さすと、宮崎駿監督のスタジオジブリのアーティストがその場で描いたものだと説明してくれた。絵の中で描かれている空にはあらゆる色合いの青が用いられており、ふわふわとした雲は紙から抜け出してどこかに流れていってしまいそうだ。ジブリの作品ではおなじみの景色だ。

妻倉社長はその絵を見つめながら語る。「学校で一般的なポスターを子どもに描かせるのではなく、このような実演を先生が行なう様子を見せてあげたほうが良いでしょう。子どもたちにはジブリのような絵を自分なりに描かせてやればいい。子どもたちに夢や希望を与えなければいけません。そうでなければアートの意味がありません」。

ニッカー絵具で製造される絵具は600色にも及ぶ。「色合いが非常に近い2色の間の色を作ってほしいというご要望が多くのお客様からあります」。妻倉社長は語る。例えば、1963年に『鉄腕アトム』が日本で最初に放送された時、手塚治虫プロダクションのスタッフが工場に来て色を選定したという。標準で1~6までの色しかなかったため、手塚氏が理想とするアトムの靴に合う色合いが見つからなかった。そこで、ニッカー絵具は新たに3と4の間の色を生み出した。この色が現在の#3.5だ。

その2年後、アニメがカラー放送される際には、手塚治虫プロダクションのスタッフは空の色を選定するために再びニッカー絵具を訪れた。「ご要望どおりの色ができた時、手塚さんは満足されて『これが、まさしく空の色だ!』とおっしゃいました」。この色が現在のセルリアンブルーだ。

ニッカー絵具の製品を使ったアニメーションは世界中で知られているが、会社自体の知名度はそうとはいえない。この現状を打開すべく、妻倉社長は同社の絵具だけでなく、絵具工場の魅力も広く伝えようとしている。昨年の夏には「えのぐ工場に行こう」という題のポスターを制作し、日本有数の産業新聞である日経産業新聞に折り込みを入れ、アピールした。その結果、親子連れを主とする700名が同社の工場を訪れ、絵具の製造工程を見学して学んだ。

妻倉社長は環境問題や社会問題の解決に向け、いくつかのプロジェクトにも取り組んでいる。都市の落書き問題もその一つだ。日本各地で壁画を描くイベントを開催して、最近の例では、東京の下北沢駅から5分のところにある壁に壁画を完成させている。かつては落書きだらけの駐車場だった下北沢の600㎡のスペースでは、2mの高さの壁にキリンが横たわった姿が描かれている。所有者からの依頼を受け、8日間かけてペイントを施した。

また、ある小児病院のMRI室では、壁だけにとどまらずMRI機器自体にも動物の絵が描かれている。これらの暖かい色彩は、子どもたちの気分を和らげる働きがある。

不登校を防止する取り組みでは、女子トイレの各扉に見事な絵を描き、出席率の向上に貢献した。

これらの様々なプロジェクトに取り組んでいながら、ニッカー絵具には17人の社員しかいない。「社員数が少ないということは、意思決定が早いということです」と妻倉社長は語る。「また、仕事環境から将来のプロジェクトまで、一人ひとりの社員の考えをじっくり聞く時間があるということです。この会社ではみんなが家族のようなものです」。

同社の絵具から家族に愛される映画が多く誕生していることを考えると、きっとその通りなのだろう。



前へ次へ