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Highlighting JAPAN

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インタビュー: 沖大幹教授

世界の水需要の問題に立ち向かう

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沖大幹教授は東京大学生産技術研究所の地球規模水文学・水資源工学研究室を率いる。水分野の第一人者として、国内外から水研究に関する賞を数多く受賞しているほか、2011年のタイ洪水をはじめとし、海外においても水資源研究の現地調査などを積極的に行っている。世界が直面する水問題や日本の水事情などについて沖教授にお話を伺った。

――今日世界の水資源に影響している問題には主にどのようなものがありますか?

大きく分けて3つあります。
第一はアクセスの問題です。現在、全世界で7-8億人が安全な水へのアクセスができない状況にあります。多くの国では、人々は不衛生な水を飲むことで健康へのリスクを負うか、長い距離を歩いて安全な水を汲みに行くかの選択を迫られています。水を汲みに行くには時間がかかり、世界の多くの地域では水の確保は女性の役割とされます。また、しばしば子供たちがその手伝いに駆り出されることがあるため、子供の教育にも影響を与えてしまいます。水へのアクセスがないことは、その他多くの問題にも関係していて、その国の経済的発展を妨げる結果に繋がっています。

国連はミレニアム開発目標の一つに、安全な飲み水への持続的アクセスが乏しい人口を2015年までに半減させることを掲げました。その結果はすでに表れています。1990年当初、人口53億人に対して11億人の人々が安全な水へのアクセスがありませんでしたが、現在は70億人に対して安全な水へのアクセスがない人は7‐8億人となっています。この国際的援助の主な目的は、乾季の長い地域における井戸や貯水施設の普及と都市部での給水パイプの建設です。都市部の住民はメンテナンスの方法においても指導を受けており、技術的な援助と人材の育成が足並みを合わせることの重要性が示されています。

第二の問題は水の量です。経済的発展が進むにつれ、水の需要も増える。今日世界の一部で水が不足しているのは、単に水の分布の偏りが理由ではなく、すべての人に安定して水を供給できる優れたインフラがないことが原因です。日本がかつて増大する水の需要にどう対処したかは、江戸時代における東京の神田川と小石川の両河川に見ることができます。人口が増加した時、この二つの小さな川では足りなくなった。そこで多摩川の水を引くために40キロに及ぶ用水路が造られました。その何百年か後、戦後の高度成長期における産業発展に伴った水需要量の増加を支えるために新たに人口貯水池が数多く建設された。このように日本は、人口過密の地域でも持続可能な水の供給システムの開発を続けてきたと言えます。

第三の問題は水質悪化です。水の汚染のほとんどは工場が原因だと思われがちですが、実はそうではありません。途上国の水の9割は、農業に使われています。工業による水の使用、家庭による水の使用、そして農業による水の使用も、家庭廃棄物や化学肥料の過剰使用も含めて、すべてが公共の水資源の汚染に繋がります。水の浄化は最優先で取り組むべきですが、高いコストがかかるためにその実施の優先順位を下げてしまっています。下水管理、汚水処理タンクの建設、工業排水の管理は、今日も、そして未来も最重要課題である必要があります。

――われわれ一般の人々が水の問題の解決のためにできることは何ですか?

それは難しい質問です。なぜなら、最も基本的な問題の多くは政府レベルでしか解決できないからです。しかし、私たちはいち消費者として、その力を良い方向へと動かすべきです。例えば、環境を配慮している工場で作られた製品やフェアトレード製品を選んで買うなどといったことです。しかし、消費者のこういった選択を可能にするためには、産業側が水の再利用や浄化システムを公表する必要があります。水供給に関する環境的影響の情報公表によって家庭や個人が自らも利害関係者であることを自覚し、社会において水使用に対する意識改革を促せるかもしれません。小学校や中学校の水資源教育を強化することも大切だと思います。水を世界の生きたものとして学ぶ、地学の一環として水資源管理の教育を取り入れるべきではないでしょうか。


日本では普段から節水を意識しながら生活している人も多く、行政もそれを推進している。一人一人の心がけが世界の水問題解決の小さな一歩に繋がるに違いない。





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