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Highlighting JAPAN

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日本の夏

江戸時代から伝わるウインドベル「江戸風鈴」(仮訳)

風を音に変える



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下町として知られる東京の古い地区にある台東区は、浅草・雷門や上野公園などの観光スポットがある場所として有名な場所で、江戸時代には商業・文化の中心地として栄えてきた。

台東区に、江戸時代から伝わる、手作りのガラス製ウインドベル「江戸風鈴」を作り続けている家族がいる。篠原まるよし風鈴は、日本中で2軒しかない江戸風鈴工房のひとつ。ご主人の篠原正義氏は、江戸風鈴の名付け親で江戸川区の無形文化財保持者・東京都名誉都民の篠原儀治を父に持ち、その正統な技術を受け継いでいる。

篠原まるよし風鈴を訪れた人は、店先に吊るされた江戸風鈴の色鮮やかさにまず目を奪われる。よく見ると絵はガラスの内側から描かれていることがわかる。絵柄は、日本の夏の縁日でよく見かける「金魚」や、日本の夏の終わりに出現する「トンボ」、そして日本の夏の風物詩である「花火」など。

これらは夏にちなんだ絵柄のように思えるが、篠原氏によると、絵柄には縁起かつぎの意味もあるという。「例えば金魚は、風水では金運のシンボルです。金魚という魚は、生まれた時には体面が黒いのですが、成長するにつれて赤くなります。これは風水で『陰』から『陽』(マイナスからプラス)に変わることを意味し、大変縁起が良いのです。金魚は、『金色』の魚というより、『お金』の魚なのです。」

篠原氏は現在、江戸風鈴を年に1万4000個ほど製作している。熱い釜のすぐ前に立ち、ガラスを吹いて手作りする。同じものを大量に作るためには熟練の技術とスピードが必要になるが、篠原氏は子どもの頃から長年風鈴を作り続けているため、こつは「体で覚えている」と言う。風鈴がよく売れるのはやはり夏だが、夏の間に一年分の風鈴を作るのは不可能なので、吹きガラスから絵付けまで、家族総出で一年中大忙しだ。

江戸風鈴が生まれたのはクーラーも扇風機も無い時代。風水の思想に基づいて作られた銅製の風鈴をガラスで作った職人がいて、これが夏によく似合うと江戸時代に人々のあいだで流行した。

篠原氏は江戸風鈴の魅力を「風を音に変える」ことだという。江戸風鈴はガラスのなかにガラス管がつるしてあり、風が吹くとそのガラス管が揺れて音が鳴るという作りになっている。風鈴の鳴り口の部分はギザギザしていて、少しの風でも涼しげな美しい音が出るように工夫されている。

江戸風鈴は海外のお客さんからも人気が高いそうだ。ガラス吹き体験や絵付け体験なども喜ばれる選択肢だ。

江戸風鈴は見た目にも美しいため、中にはつるさずに置いて飾るお客さんも多いという。「それもいいのですが、風鈴を手にしたら、風を楽しんでほしいですね。日本には風を楽しむことを『風を愛でる』という表現があります。ぜひ風を愛でてほしいです」。そして彼は手にした風鈴をチリンと鳴らした。



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