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Highlighting JAPAN

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科学と技術

吐く息で健康をチェックする(仮訳)






人は常に口から空気を吸い込み、吐き出すことを繰り返して呼吸をしている。吐き出すときの呼気に含まれる成分のうち80%近くは窒素で、残りの2割が酸素(16%)、二酸化炭素(4%)であり、この他に、体内で発生した微量のガスが1%ほど含まれている。

呼気中のわずか1%に含まれるガスの種類は約500種にもおよび、体内の状態などによってその構成比や排出量は変わるため、これら呼気中のガスを分析できれば、健康状態や体内の代謝活動の計測が可能になる。息を吐き出すだけでいい呼気による健康チェックは、血液や尿の検査に比べて、検査を受ける人の心身への負担も低くて済む。

問題は、呼吸に含まれるガス成分が極めて微量なので、測定が困難という点である。そこで株式会社東芝では、装置に息を吹き込むことで、呼気の中から特定の微量ガスを抽出してその濃度を測定する簡便でコンパクトな呼気ガス分析装置を開発した。その装置には同社が得意とする半導体レーザー技術とガス分析技術が活かされている。

開発を担当した豊嶋直穂子氏によると「微量のガスを計測する方法としてはガスクロマトグラフィーという方法がありますが、分析に時間がかかる上に専門知識を備えた人でないと扱えないという弱点があります。そこで、医療現場などで誰もが使えることを目指して開発したのが、この呼吸分析装置です。測定時間も約30秒とかなり短くなりました」という。

ガスに光を当てたとき、吸収できる光の波長(吸収スペクトル)はガスの種類によって異なる。この吸収スペクトルは、ガスにとっての「指紋」のようなものだ。この特徴を活かした「レーザー吸収分光法」により、ガスに赤外線を照射して、その吸収スペクトルからガスの種類と濃度を測定する。光源には、比較的波長の長い中赤外光を発する量子カスケードレーザーを使った。

現在この装置を使って計測できる成分は、アセドアルデヒト(アルコール代謝)、アセトン(脂肪酸代謝)、メタン(腸内細菌代謝)などだ。東芝はまず肥満や糖尿病との関連が指摘されているアセトン濃度の計測について、2015年の実用化を目指している。

また、早稲田大学スポーツ科学学術院との共同研究により、呼気中のアセトン濃度と脂肪燃焼量の相関を調べる検証実験も始めた。アセトンは、脂肪がエネルギーとして利用される途中で生成されるため、運動で脂肪を燃焼させたときをはじめ、絶食して飢餓状態にあるときや高脂肪食を食べたときにもアセトン濃度が上昇することがわかっている。その濃度を調べることで、運動やダイエットの脂肪燃焼効果を定量的に測定できると期待されている。息を吐き出すだけなので、一日に何回も繰り返して計測できるメリットもある。

将来的には、測定可能な成分を増やし、診断対象範囲の拡大を目標としている。「呼気のみで病気の診断をすることはまだ難しいですが、血液や尿など他の生体情報と組み合わせて、全身の健康管理に役立てることは考えらます」と話す豊嶋氏。運動や栄養の指導、病気の診断、薬の効果測定など、健康に関わる幅広い分野での活用が考えられるなど、新たなバイオマーカーとしての呼気の可能性に注目が集まる。



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