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Highlighting JAPAN

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明日をつくるベンチャー企業

日本の伝統産業を活かす(仮訳)




陶器や織物、和紙、木工、漆器など、日本の文化や歴史のなかで育まれてきた伝統産業は、日本が持つ貴重な財産だ。しかし、ライフスタイルの欧米化や大量生産による低価格化などにより、伝統産業は衰退している。伝統産業を手がける職人たちは先代より受け継がれてきた知恵と技術を残そうとしているが、後継者不足など様々な問題を抱えている。

「各地の伝統が途絶えてしまう」と一人の慶應義塾大学の大学生、矢島里佳氏は危機感を持った。当時、将来は記者になりたいと思っていた彼女は、自ら企画を持ち込み、旅行会社の会報誌で地方の伝統産業の若手職人を紹介する連載を19歳から3年間の間持っていた。

「日本には魅力的な技術を持った職人さんがたくさんいるのに、伝統産業の魅力は若い人に全然知られていないと感じました。なぜなら、伝統産業品のほとんどは大人向けだからです」と彼女は言う。「今の若い人たちは幼少期に、伝統産業に出会うきっかけがなかったからだと考えたのです」。

そして、矢島氏が慶應の4年生のときに、子どもが伝統産業に触れるきっかけを作ろうと「株式会社和える(aeru)」を起業した(和えるという社名には、異なるもの同士の本質を見極めお互いの良さを引き出し合うという意味がある)。起業資金には東京都と東京都中小企業振興公社が主催するコンテスト「学生起業家選手権2010」で優勝して得た賞金150万円を充てた。彼女はこのほかにも数々のビジネスプランコンテストへの入賞経験を持つ。

「古き良き伝統と今を生きる私たちの感性を『和える』ことで、文化を生み出し、次の世代へ伝えていきたいのです」と彼女は説明する。「子どもにこそ伝統産業品を通じて日本の豊かな文化や風土に触れ、本物を体験して育ってほしいです。その子どもたちのなかからは職人になりたいと思う人も出てくるでしょう。」

日本各地の伝統産業の職人と共に、aeruオリジナルの赤ちゃんや子どもの日用品を製作している。徳島県の本藍染では、化学薬品を一切使用しない”天然灰汁発酵建て”という技法で染め上げた、オーガニックコットン生地の産着やタオル、靴下のセットや、石川県の山中漆器、徳島県の大谷焼、愛媛県の砥部焼などで作られた子ども用のこぼしにくい器など、様々な商品を開発している。

現在26歳の矢島氏の経営スタイルはとてもユニークだ。彼女は子育てと会社経営は似ていると言い、会社を「和えるくん」と呼び、日本の伝統をつなぐために生まれた「和えるくん」がすくすく育つ環境作りを心がけているという。

矢島氏は子どものように素直な心を持っている。「いつも自然体で自分が正しいと思うことをやることが大切。自分の好きに素直であること、そして結果的にそれが社会からも求められていることであれば、自ずと続いていくと思うのです。」と彼女は言う。彼女は次のステップを視野に入れている。現在では、香港や、パリの老舗百貨店『ル・ボン・マルシェ・ リヴ・ゴーシュ』へ出展しているという。

また、矢島氏は、「先人の知恵の積み重ねが一度途切れてしまうと、お金では取り返すことができません」と言う。「伝統産業もまさにそうです。職人さんの手作りによる伝統産業品は、作る人がいなくなれば、どんなにお金を積んでも買うことはできません。」

「和える」は単に売り手と買い手をつなくだけではなく、「和える」に関わる人たちをつなぎ、日本の伝統を次世代の子どもたちにつないでいく。矢島氏はこの取り組みにより、日本の先人の知恵が次世代に受け継がれるよい循環が再び生み出されることを期待している。



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