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Highlighting JAPAN

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日本のヘルスケア

パロ

介護のためのかわいらしいセラピーロボット(仮訳)



少子高齢化が進み介護に関わるコストが増大することは、先進国に共通する問題である。本物の動物を飼うことが困難な場所にいる人々のために、ひとつの解決策がセラピーを目的に開発された「パロ」という名前の高性能ロボットという形で登場した。アザラシの赤ちゃんに似た見た目のパロは、国内外で注目されている。パロを開発した産総研ヒューマンライフテクノロジー研究部門上級主任研究員の柴田崇徳氏がその理由を語ってくれた。

「私は、治療を含め、人間にさまざまな利点をもたらす人と動物との関係を調査しました」と柴田氏は言う。「人はペット愛し、大切にしますが、生きた動物を扱えない人や場所があります。そこで私は動物ロボットがその役割を果たせるかもしれないと思ったのです。」

在宅介護でも、施設介護でも、介護拒否、徘徊、暴力などの老人の問題行動は介護者への精神的負担が高い。老人の問題行動を減らすことは介護を行いやすくするだろう。その点、「パロを使うと気分が良くなり、うつ、不安、孤独等の改善効果があり、ストレスの軽減や会話の活発化が起こることが臨床研究によってわかっています。こうした効果は介護を維持しやすい環境を作るのです」と柴田氏は言う。

動物とかかわることをセラピーに使う「アニマルセラピー」はこれまで様々な効果があると言われてきた。アニマルセラピーに基づいたロボットセラピーで臨床研究による明らかなよい結果が示されたのはパロが初めてである。アメリカでは、身体的リハビリ用ロボットを除けば、神経学的セラピーの医療機器として認められているのはパロだけである。

パロはヨーロッパや北米、オセアニア各国で臨床試験を経て、高齢者向け施設などに導入されている。日本では岡山県、富山県、神奈川県等でこの可愛らしい小さなアザラシロボットの公的導入補助が始まり、国の介護保険適用の可能性も出てきているという。デンマークでは2006年から2008年までの国家プロジェクトにより認知症高齢者のセラピー効果が評価され、2009年からは地方自治体による公的導入が始まり、既に70%以上の地方自治体によりこの小さなロボットが導入された。

米国退役軍人省病院では、認知症とPTSDの高齢者が、パロとふれあうことで、うつや不安等のための抗精神病薬の服薬が大幅に低減したという。その結果パロが米国政府調達の対象になった。「パロの効果は薬と違い速効性があり副作用はゼロなので、薬の管理や安全確認といった介護者の負担も減ります」と柴田氏。

可愛らしいパロの内部には、高性能ロボットとして実は日本の最先端の製造技術が集約されている。センサー技術、人工知能、モーターなど日本の80以上の企業が部品などを提供している。コンパニオンアニマルロボットとして10年以上技術者がついていなくても誰でも安心してパロを使えることにも留意している。

その可愛らしい姿の内側にあえて技術を隠しているために、パロがおもちゃ扱いされることもあるのは、良い面であり悪い面だと柴田氏は述べる。「世界各地でより深くパロを理解してもらい、それぞれの社会の医療福祉制度に合わせてより多くの人に使って喜んでもらいたいです。」

認知症高齢者は現在世界に4400万人、その医療福祉等コストは年間約60兆円と見積もられている。パロがそのコストを下げることが期待されている。ペットを飼えない環境でも使用できるため、パロとロボットセラピーへのニーズは、柴田氏の望みどおり今後ますます浸透してゆくだろう。



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