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Highlighting JAPAN

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科学と技術

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養殖に影響を及ぼす病気を見つける次世代技術の開発(仮訳)




最近では、健康志向や和食ブームの影響から、世界中で以前より増して魚介類が消費されている。それに併せて養殖(海中の食用の動植物を育てること)の生産量も急増している。実際、研究者たちは2030年には世界で消費される水産物の6割以上が養殖になると予想している。養殖のほとんどは中国やタイなどのアジアが中心だ。魚類、貝類、エビやカニなどの甲殻類、海藻類など、養殖水産物は100種類以上にものぼる。

 ところが、養殖生産があまりに急速に増加したため、餌となる飼料の高騰、感染症の多発などの問題が発生している。例えばエビの養殖生産は後者の理由でかなり深刻な状況だ。国連食糧農業機関によると、タイの養殖エビの生産量は2011年には60万トンだった。2年後には28万トンまで激減し、エビの価格は前年の2倍近くに高騰した。

原因は、感染するとほぼすべてのエビが死亡してしまうEMS(早期死亡症候群)と呼ばれる感染症。2009年に中国で初めて報告されて以来、ベトナムやタイなど東南アジアへと拡大している。

 2013年7月、アメリカの研究者ドナルド・ライトナー博士がこの感染症の原因菌が腸炎ビブリオであることを突き止めた。しかし、ビブリオ菌は多数存在し、これまでは脅威ではないとされてきた。それなのに、養殖エビに対して特定の強い毒性を持つのはなぜか。

各国が原因究明を急ぐ中、東京海洋大学の廣野育生教授は東京海洋大学の岡本信明学長がリーダーである「地球規模課題対応国際科学技術協力プログラム(SATREPS)」の事業として、タイ及びタイ水産局との共同研究を開始した。病原性と非病原性のビブリオ菌の遺伝子解析を行い、2014年1月に病原性の菌にのみ存在する遺伝子群を発見した。

「病原性の腸炎ビブリオの遺伝子解析の結果、昆虫の消化器系に対して毒性を発揮する毒素遺伝子と似た遺伝子を見つけました」と廣野氏。「エビも同じ節足動物ですし、今回の感染症でも肝臓や膵臓などの消化器が変色して壊死するという昆虫との共通点があるのです。」

廣野氏らは現在、この遺伝子群をターゲットに、感染症にかかったエビを短時間で見つけ出す診断法を開発した。タイ水産局はこれをスタンダード診断法として使用し、エビ養殖業者への診断サービスを提供している。これらの開発は、養殖する海水からの病原菌除去や感染症防除法の開発などを含む解決策が期待されている。

さらに、別のタイの研究グループの研究によれば、養殖エビの餌として使われるゴカイや二枚貝といった生き餌がEMS感染症の拡大に関連していることがわかった。魚介類の輸入には厳しい検疫があるものの、生き餌にはそのような対策や輸入制限がない。このことは生き餌についての国際的なルールづくりが必要になることを意味しているだろう。タイの研究機関でもタイの政府でも、安全性の高い日本の検疫システムへの関心が高いという。

「世界でも有数の魚介類消費国である日本は、養殖技術や輸入安全対策、魚病に対する感染症ワクチン開発など、さまざまな面で世界をリードする存在です」と廣野氏は語る。「今後さらに養殖水産物の消費量が増えるにつれて、安定して安全に生産するために日本が中心となって国際的な研究ネットワークを構築することが大切だと考えています。」

SATREPSのプロジェクトに関わっている研究者たちは、養殖のための品質改良、代替飼料や大型魚類を短期間で成育する借り腹養殖技術などの開発を進めている。日本からの新しい養殖技術が、エビの生産量減と価格高騰という食糧事情は勿論、世界のシーフード料理とそれを楽しみにする我々のよりよい未来を支えることが期待されている。



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