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Highlighting JAPAN

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日本のテキスタイル

優雅さと粋

江戸小紋を世界へ、そして未来へ(仮訳)



東京は、京都・金沢に並ぶ着物の染色三大産地である。伝統的工芸品である東京染小紋の老舗として、伝統と技を現代に継承している新宿の「富田染工芸」の代表取締役であり、社団法人全日本きもの振興会の理事を務める富田篤(とみたあつし)氏に、東京染小紋の魅力についてお話を伺った。

「大都市東京の地場産業がなぜ着物の染色なのか。それは江戸時代の参勤交代(各藩の藩主を定期的に江戸に出仕させる江戸幕府の法令)が理由なのです」と富田氏は説明する。全国の大名が江戸に集まる際、当時の礼服であった裃に区別をつけるために模様を入れたのが江戸小紋のはじまり。そこから庶民にも小紋が広まって行ったという。「江戸は都会なので着物の柄の流行も生まれますが、いちいち京都など遠方に染を出していたのでは時間がかかり需要に追い付かない。そのため水洗いに使った神田川の清流沿いに、染屋の集散地が広がって行ったのです」。

現在の東京染小紋は「江戸小紋」と「東京おしゃれ小紋」に分類され、どちらも型紙を使って布を染める。「江戸小紋」が単色の細かい文様なのに対し「東京おしゃれ小紋」は文様が大きく多色を使用するという違いがある。型紙は伊勢和紙を使ってすべて手で彫られ、一枚約30万円。一つの型紙で40反ほどに使用できるという。繊細な線の一本一本が手作業によって作り出される江戸小紋の技法は、近代の欧米のプリント染色に大きな影響を与えたと指摘されている。

東京染小紋は長板に白生地を張り、型紙をのせ、ヘラで色糊を置いてゆく。彫りぬかれた部分だけが染め出される仕組みだ。色糊をヘラでしごいて生地に置いた後、生地を蒸して染料を発色させ、糊を洗い流すと、美しい江戸小紋の姿が現れる。よく干してから蒸気でシワを伸ばしながら生地の幅を整え、最後にムラの修正をする。

「東京染小紋に限らず、日本には素晴らしい職人技がたくさんあります。しかし日本人女性でさえ自分で着付けができる人は1割に満たない現状で、いいものだからと昔ながらの感覚で作り続けていても、それは『伝統工芸品』の枠を出ず、すたれてしまうでしょう」と富田氏。彼は、現代的な大量生産に負けないためにも、顧客の望むものを伝統的な技術を活かして作りたいと考えているという。

実際に「富田染工芸」ではおしゃれ小紋の型紙を使用してシルクや羊毛など多様な素材を使ったスカーフやストールなども作っている。日本の最高級の織物に伝統の染の技術を合わせ、伝統的な文様が現代的に生かされている。国内では三越、高島屋で販売され、海外ではパリのメゾン・エ・オブジェへの出展や、2014年春にシンガポール高島屋で人気を博した。

ただ「昔ながらの物」としてそこにあるだけでは、いずれ伝統工芸はすたれてしまう。受け止める側のニーズに応えてマーケットのなかで息づき続けることが、伝統工芸を次世代へ継承するために必要なのだ、と富田氏は言う。

染の技術を生かした現代的なものを国内外に広めようと思ったきっかけは、東京都美術館が2012年にリニューアルオープンした際の現代デザイナーとアーティストのコラボ企画で、江戸小紋をポケットチーフにした『小紋チーフ』がコンペ選出されたことだったという。既存の観念にとらわれず踏み出せば、現代的でありながら江戸の粋が息づく新しいものを生み出せるのだと実感したそうだ。

ことさら表を飾るのではなく、隠れたところに洒落っ気をもたせるのが『江戸の粋』である。「東京染小紋というテキスタイルを通して、このセンスを外国に伝えていきたい」と富田氏は意欲をのぞかせる。



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