Home > Highlighting JAPAN >Highlighting Japan April 2015>観光

Highlighting JAPAN

previous Next

観光

故郷のルーツ

昔ながらの日本で体験するグリーンツーリズム(仮訳)


春蘭の里は本州の西の沿岸、日本海に突き出るように伸びる能登半島に位置する。石川県のこの農村では、47軒の古い農家が「民宿」(日本式の宿泊施設) として宿を提供している。春蘭の里の住民の生活様式からは、今なお息づく遠い昔の日本の原風景を垣間見ることができる。

この農村は周囲と隔絶した環境に置かれながら、昨年は1万1000人が訪れ、その十分の一が海外からの旅行者だった。人口わずか900人の農村にしては、相当な偉業といえるだろう。新幹線も停まらなければ、ファーストフード店もネオンライトもない村がこれほど人を集めたのは、いわゆる「グリーンツーリズム」のせいかもしれない。ここには水田、野菜畑、山、小川、林があり、温かい人々がたくましく暮らしている。そして住民らは、訪れた人々に農村生活を体験してもらうための態勢を整えている。

大きな木造の農家民宿のひとつ、「春蘭の宿」では、宿泊客は玄関で靴を脱ぎ、囲炉裏 (床を切り抜いて作った暖炉) で暖められた快適な部屋の座布団に腰を下ろす。赤く光る炭の上には、鉄のやかんが吊るされている。この宿の主人である多田喜一郎さんは、お茶や軽食の用意にせわしない。宿に落ち着くと、多田さんは人気の理由について、普通の宿泊施設との違いを挙げた。「ニューヨーク、パリ、ロンドン、東京のホテルに泊まったとしても、どこも同じです。ここが本当の日本ですよ」。

伝統的な日本の生活を体験できる春蘭の宿では、宿泊客はこたつ (炭火や電気の熱源を布団で覆って局所的に暖かくする形式の暖房器具)で暖をとる。別の部屋では畳の上にきれいに敷かれた布団で眠る。先述の囲炉裏のある部屋では、家内安全を願う小さな神棚 (神を祀る祭壇) が高い天井の垂木の下に設置されている。

「さあ、お召し上がりください」。多田さんは、地元産の炭を囲炉裏にくべながら食事を勧める。

「私たちは地元産の食べ物しか出しておりません」。料理はすべて手作りで、野菜中心のメニューだ。近くの田畑でとれた野菜や米、山で採れたキノコや山菜のほか、地元の小川で釣れた川魚も時々ふるまわれる。砂糖や化学調味料は使用せず、古くから伝わる手法で作った大根漬け、生姜漬け、梅干し (塩に漬けた梅)、ぬか漬けなどを作っている。多田さんは言う。「私たちのところは、東京では食べられないもの、スーパーでは売られていないものがあります。こちらにおいでになれば、ここにしかないものを召し上がれます」。

春蘭の宿では地元の食べ物の収穫など、農村生活を「体験」する機会を数多く提供している。秋にはアカタケやノメロなどのキノコ採り、冬にはお餅と味噌作り、わらを用いたホウキや草履作り、春には山菜採り、夏には野菜の収穫や稲作を体験できる。手間をかけて収穫され、ふるまわれる料理は、いつだって美味しく感じるものだ。特に、この地域の名産になっている美しい輪島塗の器 (最高級の漆器として日本全国で知られる伝統工芸品) でふるまわれると、なおさらである。

大都市のホテルや旅館と違い、ここの宿泊客は食事が終っても部屋にこもったりしない。代わりに、囲炉裏の周りに留まって民宿の主人と談笑し、お互いに話をしたり、歌を歌ったり、地元の歴史を学ぶなどして過ごす。多田さんは、玄関先に置いてあったカボチャをタヌキが盗みに来た話をする。「でも、なぜタヌキの仕業だとわかるのですか?」宿泊客にそう聞かれると、多田さんは驚いたように答える。「それはね、カボチャを盗むなんて、タヌキしかいないでしょ!知らなかった?」。

春蘭の里にはファーストフード店や映画館はないかもしれない。だが、ゆったりとくつろぎ、多くの体験ができるのは間違いない。



previous Next