Home > Highlighting JAPAN >Highlighting Japan April 2015>科学と技術

Highlighting JAPAN

previous Next

科学と技術

生体の測定

直接貼れて、ズレないシート状の生体

情報センサーが誕生(仮訳)




医療ビッグデータの活用に期待が集まる中、あらゆる状況で生体データを取得できるセンシング技術へのニーズが高まっている。医療機関などで採取される血液や画像診断データとは異なり、日常的な身体情報を計測できるため、予防医療や健康増進に役立てることが狙いだ。

東京大学大学院工学系研究科の染谷隆夫教授は、体に直接貼り付けて生体情報を測定できるシート状のセンサーを開発した。厚さ1.4マイクロメートルという食品ラップの約1/10ほどの極薄の高分子フィルムの上に、高性能な有機トランジスタ集積回路を作製したシートだ。湿布のように体に貼り付けることができ、伸び縮みして、ズレずにはがれることもない。

生体情報を感知・識別(センシング)するには、生体適合性に優れた材料だけを使い、曲がったりねじれたりといった複雑な動きをしてもズレないシートでなければいけない。そこで、染谷教授はポリロタキサンというゲルの中に接着剤などにも使われるポリビニルアルコールを均一に混ぜて、やわらかい「局所的に粘着性を高める水のり」を開発。センサーの電極部分だけに粘着性があり、湿った生体組織でもピッタリと貼りつく。また、光を照射すればさまざまな形に形成(パターニング)できる。

試作した集積回路は4.8センチメートル四方の面積に12×12(144)個のセンサーが4ミリメートル間隔で配列。生体が発する微弱な電気信号を高精度で計測することができる。実験では、指の関節部分に貼り付けて変形による物理量(ひずみ)の測定に成功した。さらに、ラットの心臓表面にこのシートを直接貼り付けたところ、高精度での心電を計測することができた。「心臓に直接貼り付けたシートならば、体の外側からでは捉えることが難しい局所的な電気信号を発見できるなど、従来の検査とは違う診断に役立てられるかもしれない」と、染谷教授は期待を寄せる。

接着材の役割を果たす材料は、時間が経つと溶けて粘着力がなくなるため、計測後は皮膚や心臓表面に負担をかけずにはがすことができる。粘着具合やはがれるまでの時間は、利用目的に応じて材料を調合すればいい。ただし、粘度が高すぎてもうまくはがすことができず、乾きすぎてもくっつかないなど、くっつき具合の調整は生体用だからこその難しさがある。

有機トランジスタの研究を専門とする染谷教授は、これまでの研究でも世界でもっとも薄くて軽い、柔軟なセンサーシートを開発したことで知られているが、さらに薄さと柔軟さを追求していった先にあったのが、生体に直接貼り付けるセンサーだった。「水と酸素によって劣化する電子デバイスにとって、高温多湿な生体は最悪な環境です。それでいて絶対的な安全性も求められるし、複雑な動きに干渉せずに確実にセンシングする難しさがありました」と、開発時の苦労を語る。

このシートは、計測されている本人ですら気づかない自然な状態で、連続して高精度なセンシングをすることができる。心臓などの生体内でも使えることが分かったことから、医療、ヘルスケア、スポーツ、福祉などさまざまな分野への応用が期待できる。ヒトへの応用を進めるためには、生体適合性などさらなる安全性の確認が必要になるが、究極のウェアラブルデバイスとして、エレクトロニクスの可能性を拡げることに貢献することになる。



previous Next