Home > Highlighting JAPAN >Highlighting Japan June 2015>地方の魅力発信

Highlighting JAPAN

previous Next

地方の魅力発信

ITと出会い、活性化する町(仮訳)

過疎高齢化に悩んできた徳島県美波町。しかし近年、複数企業のサテライトオフィス誘致に成功し、地域再生事例として注目される。

徳島県南部に位置し、太平洋に面した美波町は、アカウミガメの産卵地として知られる。豊かな自然資源に恵まれ、かつては農漁業や商業で栄えたが、若者が都会へ流出し、過疎高齢化に悩んできた。しかしその美波町が近年、「とくしま集落再生プロジェクト」の一環として複数企業のサテライトオフィス誘致に成功し、注目されている。

徳島県は2011年の地デジ化に伴い、CATV化を推し進め、光ファイバー網整備に注力してきた。その結果、全国1位のインターネット環境が整い、都心のベンチャー企業などに対してサテライトオフィス誘致を行い、地方活性化の一環として力を入れ始めた。

時を同じくして、美波町の衰退に胸を痛めていたのは、この町で育ち、東京で起業していた若き実業家、サイファー・テック株式会社社長の吉田基晴氏だった。同県神山町の先例を追う形で、吉田氏は2012年5月にサテライトオフィス「美波Lab」を開設し、1年後には本社を東京から美波町へ移転させ、さらに地域のさまざまな魅力を保護・振興する「株式会社あわえ」を起業した。

あわえのオフィスは明治時代建築の銭湯「初音湯」を全面リノベーションしたものだ。昔の湯船を利用した会議テーブルや、郷愁を誘う木製の脱衣ロッカーが配された空間にパソコンが並び、伝統とモダンが融合した美波町の象徴的存在となっている。

美波町を愛する吉田社長は、「私は釣りも畑仕事も大好き。公私混同ですね」と笑う。山も海も川もある美波町は、アウトドア活動に絶好の環境だ。吉田社長が提唱する「半X半IT」(趣味も、仕事も全力投球)のライフスタイルに共感する人材が日本全国から引き寄せられ、サーフィンや釣り、狩猟といった趣味を楽しみながらソフトウェア開発に携わっている。

「みんなが仕事を求めて東京に行ってしまう、そういう世の中に一石を投じたい」との吉田社長の強い思いが通じ、町の積極的な助成制度も奏効して、現在9社の企業がサテライトオフィスを開設。美波町では35年ぶりに社会人口減が止まり、転入超過となった。

大阪のITベンチャー企業「株式会社鈴木商店」が、2013年9月に開設したサテライトオフィス「美雲屋」で働く小林武喜氏は、母を連れて美波町へ移住した。サーフィンや漁を愛する、陽気な若者だ。「休みなく仕事に追われる都会の生活とは違い、一日24時間の中に趣味と仕事を両立できる美波町は、むしろ生産性が高い」と話す。インタビューの数分後に見かけた彼は、オフィスの裏の浜で友人の漁師が投網を畳むのを手伝い、言葉通りに豊かな人生を満喫している様子だった。

新しい住人たちは、地元の人々から温かく迎えられている。集落の祭りや集会所での集い、漁に加わり、一緒にサーフィンを楽しみ、収穫したアワビで誕生会を祝ってもらい、古い舟を貰い受けたりする。「この町は遊びが共通言語。趣味や祭りを通じて地域の人とどんどん近づける」と吉田社長。美波町には四国88箇所を巡礼する遍路の第23番札所である薬王寺があり、古来外から来た人を温かく迎えもてなす歴史的気質があるのだ。

「首都一極集中と地方高齢化は日本だけの問題ではない」と吉田社長は語る。彼は地元経済活性化のため、IT技術などを用いて田舎に眠る素材を商品化するなど、地方でも成立する事業を模索している。美雲屋もまた、「県内の意欲のある高校生を人材として育てたい」と地元の高卒生の雇用を開始した。新規住人から地域への恩返しとして、共に栄えるための協働が始まっている。



previous Next