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Highlighting JAPAN

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地方の魅力発信

地方と都会をつなげる食べ物付きの情報誌(仮訳)

東北の生産者をクローズアップし、特集記事とともに、彼らが収穫した農水産物をセットにして届ける『東北食べる通信』の活動が、全国へと広がっている。


日本における農漁業は、農漁村部の高齢化や過疎化により近年急速な衰退化が進んでいるといわれている。しかし、都会に暮らす人々にとっても生活に直結する食の問題であるにも関わらず、地方の生産者と都市に住む消費者の間には大きな隔たりが生まれ、両者の関係が切り離されているのが現状だ。この問題に向き合うべく、2013年7月に創刊されたのが、東北各地の生産者にクローズアップし、彼らが収穫した農水産物をセットで届ける雑誌『東北食べる通信』だ。世界初の「食べ物付き情報誌」という革新的なスタイルで、「世直しは食なおし」をスローガンに掲げて活動を展開している。

「便利で楽な世の中になればなるほど、作り手と受け手の距離はどんどん遠くなっていく。都会では、地方の農漁業が抱える問題を他人事のように感じている人がほとんどでしょう。都市部と農村部をつなぎ、生産者と消費者の絆を取り戻すことこそが、歪んでしまった食のカタチを改善するきっかけになるのではと考え、創刊を決意しました」と、同誌編集長であり、岩手県出身の高橋博之氏は語る。作る人と食べる人がつながることによって、誰もが当事者意識を持てる豊かなコミュニティを目指している。

『東北食べる通信』でこれまで取り上げられた食材は、槍烏賊、牡蠣、お米、牛肉、帆立、鮭など、東北の肥沃な大地と豊かな海で育った自慢の一品ばかり。都会では手に入らない貴重な食材も多い。宮城県南三陸町の生ワカメを特集した2014年3月号では、長さが2mにも達する生ワカメを手に取った読者から大きな反響があった。塩蔵加工前の生ワカメは、市場に出回ることは少ないが、実は塩蔵にはない強い磯の香りが楽しめる。新鮮なワカメは、お湯にくぐらせてそのまま食べるだけでも十分美味しい。丁寧に取材した文章と美しい写真を通して、生産者の生い立ちやこだわり、熱い思いを知り、他人であるはずの生産者に興味や共感が沸いてくる。そしてその生産者が大切に育てた自慢の食材に触れ、料理して食べることで、生産者との距離がぐっと縮まるのだ。

同誌の読者は現在1500人、顔が見える関係を維持するためには限界の数字である。読者層は7割が首都圏在住の30~50代が中心だ。『東北食べる通信』の理念に共感を持ち、ほとんどが口コミで広まった人々だという。

「生産者はこれまで、自分が精魂込めて作った農水産物がどんな人によってどのように食べられているか知る機会がありませんでした。『東北食べる通信』では、SNSのコミュニティ上で、読者がその食材を使った料理の写真やレシピを投稿し、生産者とコミュニケーションを取っています。これをきっかけに、生産者たちは、ただ出荷していただけの農水産物についてインターネット上で情報を発信したり、販売を始めたりしながら、自分たちの価値を引き出し、表現するようになったんです」というのは、生産現場体制を整え、自らも梱包に携わり、生産者と読者をつなげるイベントなども手がける阿部正幸氏。「一方で、読者の中には、生産の現場に足を運んで見学に行ったり、勉強会を開いたり、自発的に行動する人々が大勢います」と話す。

現在、『東北食べる通信』と同様の仕組みが日本全国に広がりつつあり、今年5月までに四国や北海道、神奈川県など12のエリアで創刊した。福島では地元の高校生で編集部を構成し、取材や執筆を行っている。3年後までに全国で100の地域に『食べる通信』が広がることが高橋氏の夢だ。

生産者の思いを乗せて、心待ちにしている読者の待つ都会へと食材が運ばれていく。農漁村部と都市部がつながり、食を通じて地域に活気を取り戻せるこの活動は、今後日本中を巻き込んでさらに盛り上がっていくに違いない。



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