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Highlighting JAPAN

声優の夢を実現

幼いころに日本のアニメの影響を受けて声優を志し、日本と中国両国で活躍する劉セイラさん。努力によって身に着けた語学力と演技力は、日本人声優に決してひけをとらない。

日本のアニメや漫画を愛する外国人は多くても、日本で作り手側として働く人は少ない。中でも声優はネイティブ同様の語学力に加え演技力が求められるだけでなく、日本人声優だけで市場が飽和状態という、外国人にとってチャンスが極めて限られる職業だ。北京出身の中国人声優、劉セイラさんは、そうしたハードルを乗り越えて日中で声優として活躍する稀有な存在である。

劉さんが育ったのは「ひとりっ子政策」がとられていた中国・北京。当時の北京では共働きの両親の負担を軽減するため、幼稚園児でも週末以外は寄宿舎生活が普通だった。寄宿舎で夕食後子供たちが観ていた日本のアニメの中でも、『聖闘士星矢』はごっこ遊びが大流行するほどの人気で、劉さんも夢中になったという。

そんな劉さんが将来の職業として夢見ていたのは漫画家だった。しかし独学で絵を勉強しているのでは芸術大学に入学するのは難しいと気づき断念。「ちょうどその頃に『新世紀エヴァンゲリオン』を観て、日本語のアフレコでありながら、その演技力に感動したのです。さらに『鋼の錬金術師』の主人公に朴璐美(パク・ロミ)さんの名を見つけ、外国人声優の成功例がすでに日本にあると知って声優を目指すことにしました。実は朴璐美さんは東京で生まれ育った方で、私の置かれている状況とは少し違う。でも、この勘違いがあったから今の私があるのです」。

声優を目標に定めてからの劉さんは、まさに猪突猛進。学生時代を通して成績優秀で、彼女なら国内トップの大学にも入学できると誰もが思っていたが、日本語が学べる環境のみを求めて北京外国語大学日本語学科を志望した。「北京外国語大学も難関ではあります。でもトップといわれる大学ではなくあえて外語大の、それも英語より汎用性の低い日本語学科のみを志望ということで、高校の先生には『もったいない』と言われましたね」。

大学在学中は交換留学生として愛知文教大学でも学び、帰国後は「オタク仲間」とコスプレにも熱中した。卒業後2009年に再来日し、日本工学院専門学校の声優・俳優科で勉強を続けた。教科書に出てくる丁寧な日本語は完璧でも、若者ことばや演技は全くできない状態から抜け出すために、中国の両親とも連絡を最小限にし、家にいるときはテレビをつけっぱなしにするなど、中国語を遮断し日本語にどっぷりつかることで、現在の完璧に近い日本語力を習得した。

プロ声優への道は、そうした努力を続けていた頃に訪れた。日本工学院専門学校2年生の時に、国内声優事務所最大手の青二プロダクションが中国で開催したイベントで司会と通訳をした劉さんの実力が事務所幹部に高く評価され、スカウトされたのだ。「日本で外国人が声優になるには、努力以外に縁や運が必要です。私はその点で本当に恵まれていたので、今こうして仕事ができている。心から感謝しています」。

アニメ『美少女戦士セーラームーンCrystal』の月野進悟役やNHKEテレ『テレビで中国語』のナレーションなど、劉さんの活躍の場は広がっている。「将来は日中2カ国語で同じ作品の主役をしたい。それができる声優が現時点で私しかいない、ということにプライドを持っていたいです」。声優業に加え、声優になるまでの自分の半生をいつか漫画で出版したい、と語る劉さん。礼儀正しく全力で努力する彼女の前には、これからもたくさんの扉が開かれそうだ。