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Highlighting JAPAN

命と希望が詰まった箱

薬剤師の町井恵理さんは日本伝統の「置き薬」(薬を詰めた箱)をタンザニアに導入する使命を担っている。NPO法人のAfriMedico(アフリメディコ)の代表を務める彼女は、医療を通じて日本とアフリカに架け橋を築き、健康と笑顔の増進を目指す。

日本のほとんどの家庭では、病気になると近くの病院や診療所に行くか、地元の薬局で薬を購入するのが一般的だ。しかし、アフリカに暮らす多くの人々は、医療体制が整っておらず一般薬の入手が困難な状況にある。

薬学部を卒業した町井恵理さんは、自ら設立したNPO法人のAfriMedicoを通して、タンザニアにおける一般薬の入手を容易にしたいと考えている。江戸時代(1603–1868)に富山県で発達した置き薬(薬が詰められた箱を先に渡し、使用した薬の代金を後で回収する仕組み)の歴史を調べていると、17-18世紀の富山県の村人の生活様式が現代のアフリカと似ていることに彼女は気付いた。当時の村人たちも大家族で暮らしているのが一般的で、医療体制が整っておらず、保険制度もなかったために医療費が高かった。町井さんは、必要不可欠な薬を箱に入れて家庭に届け、後から使用した薬の代金を回収するという伝統的な富山の方式を採用することにより、アフリカの人々の健康を改善することを望んでいる。

町井さんはタンザニアに注力する以前、青年海外協力隊として2006年にニジェールに派遣され、感染症対策のボランティア活動に従事しながらアフリカの状況を観察した。病院がはるか遠くにあるため多くの人が命を落とし、薬も不足していた。町井さんは2年間、マラリアやHIV/エイズの感染予防や医療について啓発活動を行なった。

当時を振り返り、「識字率がわずか20%程度だったため、知識を伝える方法を見つけることが重要でした。目と耳から伝える最善の手段として、私たちは紙芝居を活用したり、ラジオ放送をしたりして啓発しました」と語る。「その成果もあり、2年後には89%の村人がマラリアの原因を理解していましたが、蚊を防ぐために蚊帳を購入するなどの行動までは変化していませんでした。知識を提供するだけでは行動を変えることは難しいということをこの結果から悟り、その行動変革を起こすには知識提供する以外にももっと他に何かが必要だと考えました。その何かとは、持続的な仕組みを組み込むことだと気が付き、まずは私自身の能力を高めようと考えました」。

2008年末に帰国し、以前のように製薬会社で働き始めた。そして2011年、グロービス経営大学院に入学した。そこで「医療の改革をしたい」という同じような目標を持つ人たちと出会い、2013年に仲間と共に任意団体AfriMedicoを設立した。そして治安面、GDP規模やロジスティクスの成熟性の観点から、まずはタンザニアに注力することにした。

AfriMedicoには現在、日本に約20人、タンザニアに約10人のボランティアスタッフがいる。スタッフらは現地の医療ニーズと孤立した村に薬を届けるための方法を探るため、アフリカの医療環境を調査している。町井さんは、今までにタンザニアのいろいろな村におよそ50箱の置き薬を提供できた。

「私たちは置き薬の箱にもっとも現地に必要となる薬を入れようと考えています。箱のスペースには限りがあるので、現地の事情に合わせて内容を精査しています。例えばマラリアに対しては、薬剤の容易な服用は耐性を作る原因になるため、当初対策をしていませんでした。しかし現地のマラリアの問題は大きかったので、現在はマラリアの検査キットを入れ、結果が陽性なら病院に行くことを勧めることにしました」。

次の目標のひとつが日本での企業連携の活動をさらに活発にすることだ。「日本で生まれた置き薬のモデルは世界にも貢献できる仕組みだと考えています。他の企業や団体と連携し、各自の強みを生かすことで、アフリカの薬の届いていない地域に一軒でも置き薬を増やして貢献したいと考えています」。