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Highlighting JAPAN

光り輝く金沢の金箔

石川県金沢市における金属箔の製造は、他の追随を許さない精緻な技術を誇る。「箔一」では、職人たちが伝統的な技術を用いて、現代にアピールする素材や製品を作っている。

山根勉氏の狭い工房には、ガチャガチャという機械音と丈夫な厚紙をハンマーで高速に叩いているような金属音があふれている。

耳栓をした山根氏は、36年間身体に染み込んだリズムをとりながら、一打ごとにおよそ1トンの力がかかる「箔打機」と呼ばれる機械で数回打つごとに、手際よくぶあつい紙の束を動かす。

機械がガタガタと音をたてて止まると、山根氏は耳栓を外して、フィルムのような和紙を一枚めくり、努力の成果を確かめる。そこに現れるのはひらひらと震えて輝く金箔だ。

「日本では古来、富と権力の象徴でした」と山根氏(54)は言う。山根氏は高校卒業後すぐに箔打ち職人の道に入った。「私にとって金箔作りは根気のいる仕事ですので、一から手がけて非常に薄い金箔が出来ることにやり甲斐を感じます。」 山根氏が一片の金箔にそっと息を吹きかけて浮かせ、竹箸で持ち上げる作業をみると、金箔の繊細さが良くわかる。金銀箔の専門メーカー、箔一(石川県金沢市)で山根氏が作り上げる10000分の1ミリ(0.0001mm)の金箔は、一般的な紙のおよそ1000分の1の厚みだ。指で挟んで擦り合わせれば蛾の羽のようにくずれてしまう。

これほどに繊細な薄片に仕上げるには、何世紀もの間にわたって積み上げられてきた複雑な工程が必要だ。

まず、24金の鋳塊に微量の銀と銅を加え1300度に熱して溶解した後、圧延機で帯状に延ばす。これらを6cm角に切ったもの(業界で「小兵(こっぺ)」と呼ばれる)をさらに打ち延ばし4分の1に分割する作業を5回繰り返し、ようやく山根氏が魔法をかける段階にこぎつける。

「澄(ずみ)」と呼ばれるこの箔の段階で厚みはすでに0.003ミリであり、金沢箔まであと一歩となる。なお、職人は金箔を略して「ハク」と呼ぶ。

もちろんこれは一夜漬けで学べる技巧ではない。長年、金箔職人として働いてきた山根氏は製造工程のすべてを経験してきた。キラキラと光る箔はどんなに冷静沈着な顧客でもワクワクさせるが、山根氏に言わせると、製品としてお客様の目に触れるまでの、地道な工程の積み重ねが、究極の美しさを生み出しているのではないだろうか。

2015年に日本の伝統工芸職人に与えられる伝統工芸士に認定された山根氏は「澄を挟みこむ和紙が金箔作りにおいて決定的に重要。箔打ち紙が金箔の質を左右します」と言う。

フィルムのように薄い紙は、従来の和紙の製造工程に卵白や柿渋などの材料を加えることにより叩いても破れない強度を持つ紙が作りだされる。

和紙作りと同様に、金箔製造は仏教と深い関わりがあり、およそ1500年前に仏教とともに中国から日本に伝来したとされている。

一方、金沢箔の製造は1593年に加賀金沢藩の藩祖、前田利家が豊臣秀吉の命によりはじめたと考えられている。利家は金箔で装飾した鎧を着ることを好んだと言う。

現在、日本で製造される金箔の99%が金沢で製造されており、鎧にとどまらず多くの製品に使われている。

箔一には、皿、扇、USBスティック、化粧品など金箔を使った製品が並ぶ。

食用製品もある。金沢の近江町市場では金箔をまぶした刺身や金箔で全体を覆ったソフトクリームが売られる。

箔一では観光客に金銀箔で装飾した工芸品作りの体験も提供している。

シエラレオネから訪れ、箸の箔押しを体験したモハメド・ベイリーさん(43)は「私の国ではゴールドがあるところに希望があると言われています。富と健康を表すゴールドの意味が日本でも同じと知って嬉しいです」と話した。