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10人で作る世界一のストリングマシーン

日本の小さな企業が製造する「ストリングマシーン」が、三回連続でオリンピックに正式採用されている。

東洋造機は、東京の郊外、埼玉県新座市にある、テニスとバトミントンのストリングを張る「ストリングマシーン」の製造を専門とする会社である。社員数は約10名という小さな会社ながら、そのマシーンは、2008年の北京、2012年のロンドン、そして2016年のリオデジャネイロのオリンピック・パラリンピックで公式に採用されている。

テニスやバトミントンのストリングは通常、ストリンガーと呼ばれる専門家が張る。大きな大会では各国から優秀なストリンガーが集められる。選手によってストリングスの種類や、面圧の要求は異なる。また、試合中にストリングの張り替えが行われる時もある。ストリンガーにはストリングを素早く、正確に張る技術が要求されるので、彼らは信頼できるストリングマシーンを自然と求めるようになる。

「ストリングマシーンには、ラケットのフレームを変形させない、選手が求める面圧を正確に出せるといった性能が重要です」と東洋造機の土田明社長は言う。「それゆえ、ストリングマシーンを作るためには、非常に繊細な技術が必要なのです」

1973年創業の東洋造機はもともと、ホッチキスやペーパーパンチなどの文具や事務機器を作っていた。しかし、1970年代後半、土田氏は友人がアメリカから持ち帰ったスチール製ラケットを見て、その製造を思いつく。当時、日本ではまだ木製のラケットが主流で、スチール製のラケットは販売されていなかったのだ。土田氏が1年ほど試行錯誤して完成させたスチール製ラケットは、大手スポーツ用品メーカーから販売される。しかし、それ以降、FRP(ガラス繊維入り強化プラスチック)製ラケットが普及し始め、スチール製ラケットの製造を中止せざるを得なくなった。

こうした苦境の中で土田氏が考えたのがストリングマシーンの製造だった。当時日本では、ストリングを張る道具はあったが機械はなく、ストリングはストリンガーが手作業で張っていた。このため、ストリンガーによってストリングの張力はまちまちであった。また、ラケットやストリングのメーカーは、製品の性能テストのために、数少ない「名人ストリンガー」にストリング張りを依頼しなければならなかったことに土田氏は注目した。

「ラケットを製造する中で、ストリング張りの技術も勉強していました」と土田氏は言う。「だからこそ、選手やメーカーが求める張力を、何回張っても、正確に実現することができる電動式のストリングマシーンが絶対に必要だと思ったのです」

土田氏はストリンガーやラケットのメーカーに意見を聞きながら試作品の製造を繰り返し、1984年に第1号機が発売された。その後も土田氏は研究開発を継続し、次々と改良を加えていく。リオ大会では15番目のモデルが公式採用された。

東洋造機のストリングマシーンは2004年から海外にも輸出されており、現在、アジア、ヨーロッパ、アメリカなど25カ国以上で販売されている。東洋造機のストリングマシーンの価格は1台約100万円と、他社の製品と比較して2〜3倍高いが、通常の製品の10倍を超える耐久性を持つ。さらに、ユーザーの使いやすさを追求した様々な工夫も施されている。例えば、世界中で使えるように電圧が100Vから240Vに対応している、スタートスイッチが1箇所壊れてもスタートできるように、3箇所に設置されている、15分で簡単に組み立てられるような構造となっているなどだ。

「朝から晩まで、ストリングマシーンのことばかり考えています。夢の中で、解決策がみつかることもあります」と土田氏は言う。「安価な製品を大量生産する気持ちはまったくありません。今後もこの工場で、10人の従業員とともに、世界最高の製品を作っていきたいです」