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Highlighting JAPAN

光の彫刻

ライト・デザイナーの矢野大輔氏は「日本人らしい光の使い方」を追求している。

LEDを光のインスタレーションとして利用することが世界的に広まっている。そんなLED照明を巧みに操ることで注目を集めているアーティストが、Tokyo Lighting Designの矢野大輔氏だ。その演出は建築や公共スペースでのイルミネーション、コンサート、インスタレーションなど多岐にわたっている。

矢野氏は高校2年生の時にたまたま足を運んだ光をテ−マとした展示会に衝撃を受け、武蔵野美術大学に進んで光の空間演出を学んだ。卒業後、指導教授の主宰する会社に就職して建築照明の経験を積んだが、「もっと人に近く、アーティスティックな作品を生み出したい」という思いから2010年に独立した。

「寺堂の奥に佇む金箔の仏像は、漏れ入る光によって独特の美しさを見せます。ただ単にきらびやかなのではなく、含みのある、沈着した光の奥に見える美しさです。そんな日本人ならではの感性を、光で表現したいと思っています」と矢野氏は言う。「太陽は常に動いているように、光に動きを与え、さらに光を当てる対象となるものに意味を与えていく。光をデザインするときは、必ず真っ暗な状態から考えます。どこにどれだけ光が必要なのかを考えながら、作品にしていくわけです」

矢野氏は光を自在に操るが、光は主役ではないと言う。光を当てる対象こそが主役であり、その陰影を浮かび上がらせ、つまり存在を浮き彫りにする「日本人らしい光の使い方」を追求する。それゆえ、LEDのほか、より温かみを求める演出には白熱球を使用することもある。

矢野氏を代表する作品が、2015年10月に逗子海岸で3日間にわたって行われた“ナイトウェイブ”だ。横長に青い光が出る特殊な光源を浜に5mの高さで10m間隔に設置し、夜の海を照らした。すると、砂浜に砕ける白波が横300mにわたって青く、闇の中に浮き上がった。ほとんど事前告知していなかったにもかかわらず、SNSを通してたちまち評判が広がり、昼間では決して見ることのできない幻想的な波の表情を約1万人が堪能した。このイベントは日本空間デザイン協会の最優秀の賞を受賞している。

「一度見たら終わりではなく、じっくり見ることのできるライティングを心がけています」と矢野氏は言う。「そうすることによって、そのものの意味をより深く感じられるような、いわば“光の彫刻”を作りたいのです。その第一歩はナイトウェイブで達成できたかなと思います」

矢野氏は斬新的な光の演出を、今後も精力的に繰り広げられていくこととしている。この冬には、東京・日本橋に造成されている小さな公園で、流れ星を映し出したイルミネーションが行われる。流れ星が現れた際にセンサーでその周波数を感知し、設置したイルミネーションを瞬時に光らせることで、公園の上に落ちてくる流れ星を体感させるものだ。あらかじめ決められた照明ではなく、イルミネーションがいつ輝くかは宇宙の動きに呼応しながら変化する。

「海、山、湖と、大きな空間を使った作品を手がけていきたいと思っています」と矢野氏は言う。「そのうえで、周辺環境や訪れた人々の動きに呼応しながら、光をインタラクティブに変化させていきたいです」 矢野氏の照明演出は、今後もさらなる未知の領域を照らし出していくことだろう。