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Highlighting JAPAN

民謡に乗せて歌い継ぐ故郷

兵庫県の篠山市では「デカンショ節」と呼ばれる有名な民謡が人々に歌い継がれている。

「丹波篠山」として知られる篠山市(人口約4.5万人)は大阪から電車で北へ約1時間の兵庫県の山間にある。この地では、「デカンショ節」と呼ばれる有名な民謡が、古くから受け継がれ、楽しまれている。

デカンショ節は江戸時代(1603-1867)初期に農民の間で歌われていた盆踊り唄が起源とされている。明治時代(1868-1912)に、篠山出身の学生が東京の学生に伝えたことがきっかけとなり、歌いやすいシンプルなメロディが全国に知られるようになった。

「デカンショ節には丹波篠山の文化、歴史、名所、名産品などが歌詞に盛り込まれています」と篠山市創造都市課の小山達朗氏は言う。「普通の民謡と大きく違うのは、毎年新しい歌詞が付け加えられていくことです。現在では約300番まで歌詞があります」

デカンショ節の歌詞は、一つひとつが30秒程度で歌えるほど短く、ユーモラスに富んでいる。

最もよく知られる歌詞は「丹波篠山 山家の猿が 花のお江戸で芝居する」であるが、この歌詞は、丹波篠山の山奥に住んでいた猿が、華やかな江戸(東京)で活躍するというのが大まかな意味である。田舎者の活躍を自嘲的に歌ったものである。

丹波篠山では、地域の夏祭りでデカンショ節にあわせて住民が踊っている。その中でも最も大規模なのが毎年8月15日、16日に開催される「デカンショ祭り」である。今年で64回目となるデカンショ祭りの会場は、篠山市の中心地にある篠山城跡で、2日間で約10万人が集まる。祭りのハイライトでは、祭り会場の中央に建てられる櫓を約1000人の踊り手が輪になって踊り、打ち上げ花火が夜空を彩る。祭りでは毎年、公募から選ばれたデカンショ節の新たな歌詞も披露される。

「篠山市では小学校でデカンショ節を教えているので、市民は誰もが歌い、踊ることができます」と小山氏は言う。「デカンショ祭りの時に、櫓で歌い、踊ることは、市民のあこがれとなっています」

丹波篠山には、デカンショ節に歌われている文化や風景が今なお残されている。例えば、「丹波焼」である。篠山市の今田町は12世紀後半を起源とする陶器「丹波焼」の発祥の地で、現在も60軒以上の窯元が集まっている。窯元では、丹波焼を購入したり、陶芸体験を楽しんだりすることができる。また、兵庫陶芸美術館では、丹波焼や県内の陶磁器の収集・展示、1895年に築窯された現存する最古の丹波焼の登窯を使った作陶ワークショップなどが開催されている。

また、福住地区は江戸時代には篠山から京都に向かう街道沿いの宿場町として多くの旅人や商人で賑わった地域である。この地域には今なお江戸時代に建てられた家や土蔵が非常に良い状態で残されており、国の伝統的建造物群保存地区に指定されている。

さらに、青山歴史村では、江戸時代に篠山を治めた青山家の別邸が残されており、青山家ゆかりの歴史的な資料が展示されている。村内に今年4月にオープンした「丹波篠山デカンショ館」では、AR(拡張現実)を活用したデカンショ踊りを再現するコーナーが設けられている。

「篠山は京都や大阪からそれほど離れていませんが、ゆったりとした時間が流れています」と小山氏は言う。「日本の古くからの田舎の雰囲気を味わうには、とても良い所です」