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Highlighting JAPAN

日本料理のうま味のもと

朝の味噌汁であれ、お昼のラーメンであれ、ディナーの懐石料理であれ、美味しい日本食は愛情を込めて準備された出汁次第である。

人間の味覚には、甘味、酸味、塩味、苦味、そして、うま味の5種類がある。うま味は1907年に東京帝国大学の池田菊苗(1864-1936)博士によって発見・命名された。うま味の成分であるグルタミン酸、イノシン酸、グアニル酸は、野菜、肉、魚、海藻などの食材に含まれている。

世界には、料理のうま味を引き立たせるために、これらの食材を煮出した汁を使う料理がある。例えば、フランス料理では動物の骨、野菜、ハーブなどから作る「ブイヨン」、中国料理では、様々なスパイス、調味料、肉などから作るものを用いる。そして、日本料理ではうま味が凝縮された材料を煮出すことで作る「出汁」である。

出汁は、鍋、味噌汁、麺類などの多くの日本料理のベースとして使われる。

出汁は、かつお節、昆布、煮干し、干ししいたけなどの素材で作られたものを単独、あるいは組み合わせて作られる。

「出汁の素材の特徴の一つは、乾燥状態であることです。乾燥させることでうま味が素材に凝縮されるのです」と東京の築地市場にある和田久の中央市場店店長の中山淳氏は言う「また、長期間の保存も可能になります。かつお節は、武士が非常食として戦に携帯していたと言われています」

1925年に創業した和田久は主に、かつお節の生産・販売を行っている。かつお節は鰹の肉を切る、煮る、骨を抜く、蒸す、乾燥する、カビ付けなど様々な工程を経て約4か月をかけて完成する。ギネスブックで世界一硬い食べ物として認定されたほど硬い。そのため、かつお節から出汁を作る場合は、かつお節を薄く削った「削り節」をお湯で煮出して作る。

また、昆布の場合は、乾燥した昆布を30分程度、水につけてから、弱火で煮出す。基本的な出汁の一つ、合わせだしは、最初に昆布を入れ、その後にかつお節を加えて煮出す。

一昔前、削り節が手に入らなかった頃は、日本人の家庭では、かつお節を削って出汁を取っていた。その意味で時間と手間のかかる出汁は日本料理の歴史と知恵が凝縮されているものと言える。

NPOうまみインフォーメンションセンターによると、かつお節と昆布の出汁を組み合わせると、それぞれ単独で使う場合と比べると、うま味が7〜8倍になるという。また、出汁を使いうま味を強く出すことで、塩の量を減らした、健康に良い料理を作ることもできる。

「天然素材の出汁を使うと料理の味がまったく変わります」と中山氏は言う。「最近は出汁うま味について知っている外国人が非常に増えています。時には、質問攻めにあうこともあり、非常に嬉しいです」

海外での需要の増加に応え、和田久は2015年からスペインの太平洋に面するガリシア州の工場でかつお節を生産している。ヨーロッパへは、日本の伝統的な方法で生産されたかつお節が様々な規制により、輸出することができないからだ。そのため、ヨーロッパの日本料理店の多くは、他の国で作られたかつお節を使っている。

「10年程前、パリの日本料理店でお吸い物を飲んだのですが、あまり美味しくありませんでした」と和田久の和田祐幸社長は言う。「店主は、日本のかつお節が使えないので仕方ないと言っていました」

和田氏が生産地としてガリシア州を選んだ理由は、ヨーロッパの鰹の多くがツナの缶詰用として、ガリシア州の港で水揚げされるからだ。ガリシア州の鰹は日本でかつお節の原料として使われる鰹と品質的に大きな差が無く、また、スペインの乾燥した気候は、かつお節の生産にも適している。

和田氏はヨーロッパ各地の問屋やレストランを巡り、スペイン産のかつお節の販売活動を行っている。そのかつお節は日本料理店や、それ以外のレストランでも評価が高い。

「日本には、魚、野菜などの食材を無駄にしないという文化があります。例えば、出汁をとった後の削り節を乾燥させ、ご飯にかけて食べます」と和田氏は語る。「かつお節と合わせて、そうした文化も広めていきたいです」