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Highlighting JAPAN

砂漠を農地に変える技術

日本の技術が企業連携で海外の乾燥地帯で根づき始めている。

ニットテキスタイルメーカーのミツカワ株式会社と東レ株式会社は、協力企業の技術と組み合わせることによって、乾燥地帯での野菜栽培を可能にする製品を共同で開発した。

砂漠のような土地では、風や砂の移動の影響のため、植物は育ちにくい。また、荒廃地のような土地では、土壌が悪く野菜の栽培には向いていない。

同社が開発した「ロールプランター」は、そのような悪い土壌環境であっても、植物が根を張る環境を作り、こうした問題を解決する。

まず、直径約10cmのチューブ状のメッシュ生地である「ロールプランター」に、土などを充填して、荒廃地に2本又は3本にして並べる。そして、チューブとチューブの間に種を植える。

水の少ない乾燥地域では、点滴かん水システムを使うことによって、ロールプランター内の土の水分が適度に保たれるため、大量に水を使わなくても野菜の栽培が可能となる。

「砂漠緑化を取り上げたテレビ番組を見ていて、当社の繊維技術が環境分野に応用できるのではないかとひらめきました」とミツカワの松本茂登社長は言う。「ロールプランターの生地は、中の土がこぼれないほど目が細かいです。しかし、根は細かい編み目を押し広げて、くぐり抜けられるのです」

ロールプランターの材料には、紫外線にも強く、耐久性にも優れている東レの「PLA(ポリ乳酸)繊維」が使われている。PLA繊維は、トウモロコシのでんぷんから作られる製品で、自然に水と二酸化炭素に分解されるため、環境に悪影響を及ぼすこともない。緑化が定着するのに必要な5年から10年ぐらいの時間をかけて、土に還るようになっている。

ミツカワは2004年の中国を皮切りに、世界各国で砂漠の拡大防止、荒廃地の農地化を目的とした環境プロジェクトに取り組んでいる。その一つが、2012年〜2013年に経済産業省と国連開発計画(UNDP)の支援を受け、「マインダンプ(鉱山残土)の緑化」と「農業振興ビジネスモデルの開発」を開始した南アフリカでのプロジェクトである

ミツカワ、東レ、効率的に水を与える点滴方式の潅漑システムを作るネタフィムジャパンの3社は、ヨハネスブルグ郊外にあるソウェトで、計1500㎡の荒れ地やコンクリート上にロールプランターを設置し、栽培実験を行った。地元の農業組合の人々がトウモロコシ、ピーマン、チャイニーズキャベジ、スイスチャードなどの野菜を栽培した結果、荒れ地であっても、ロールプランターが野菜栽培に効果的あることが証明されている。南アフリカは国土の半分以上が乾燥地帯であり、農業に適した土地は国土の20%にも満たない。それゆえ、ロールプランターによる農地拡大が期待されている。

2015年にミツカワは、国際協力機構(JICA)の支援を受けて、インド国内で最も乾燥した地域のひとつ、インド南部のタミルナドゥ州のコインバトールで栽培試験を行った。試験は地元の農業大学と提携して、大学内の農場や大学近くの畑で行われた。現地の土壌は水はけの悪い粘土質であるため、農業には条件の悪い地域である。しかし、栽培試験の結果、ロールプランターを使った試験区では、通常の区画に比べてカリフラワーの収量が2倍以上になった。

「まだ事業採算性に課題は残りますが、南アフリカではロールプランターの現地生産も始めました」と松本氏は言う。「私たちの技術によって、農地不足などの問題が深刻な国々の農業生産性向上と雇用創出に貢献していきたいです」