Home > Highlighting JAPAN > Highlighting Japan December 2016 > なぜここに外国人

Highlighting JAPAN

Dr.カーで日本と世界を結ぶ

スリランカ出身の起業家であるシバスンタラン・スハルナン氏は、日本の進んだ医療技術を世界に広げている。

シバスンタラン・スハルナン氏は文部科学省の奨学金を得てスリランカから1990年に来日した。佐世保高専と山梨大学でロボット工学とコンピュータを学び、2001年にアクシオヘリックス社を設立した。当初はゲノム基礎研究の支援が主な業務だったが、現在はDNAを調べることで、より効率的・効果的に病気の診断と治療を行うゲノム医療研究支援の事業と、ITソリューション事業を中核に据えている。

また、アクシオヘリックスは2011年の東日本大震災後、医師が不足している被災地域での医療を支援するために、自動車に医療機器を搭載した移動型診療車「Dr.カー」も開発している。さらに近年は、Dr.カーを途上国に普及させるプロジェクトにも取り組んでいる。スハルナン氏がこのプロジェクトを始めたきっかけは、知人の大学教授から、アフリカのスーダン共和国では医療サービスを受けられない無医村地域が多いという話を聞いたことであった。実際にスーダンを訪れたスハルナン氏は、人々が基礎的な医療サービスを充分に受けられない同国の実情を目の当たりにし、Dr.カーの普及を決意した。

国際協力機構(JICA)の支援を受け、2013年から2015年までスーダンで行われたプロジェクトで、アクシオヘリックスは計7台のDr.カーをスーダン向けに開発・提供した。悪路でも走れる4WD車を改造したもので、同社が開発した遠隔診断用通信システムや簡易電子カルテシステム、沖縄のベンチャー企業と共同開発した超音波エコー、心電計などが搭載されている。

「医療機器に関しては、現地の人がマニュアルを読まなくても使えることと、コストを下げることに徹底してこだわりました」とスハルナン氏は言う。「Dr.カーの販売により大きな利益を得ることはありませんが、車に搭載した医療機器が徐々に広まっていけばビジネスにつながります。また、この活動を通して集まった7万人分の医療データを医療の発展のために活用することが大切なのです」

実際、スーダンのDr.カーに搭載した医療機器は多くの国の医療関係企業の注目を集めている。例えば、超音波エコーはナイジェリア、タンザニア、ケニア、エチオピア、インドの企業に販売された。また、Dr.カーに搭載したLED照明やソーラーパネルに関しても複数の商談が進んでいる。

この他にも、スハルナン氏の母国スリランカでもハーバード大学との共同研究プロジェクトを開始するために、スリランカ政府と相談中である。スリランカには、20年以上にわたる内戦で残された数多くの地雷や不発弾の爆発によって、脚を失う人が多い。プロジェクトでは、地雷によって脚を失った人々に、Dr.カーを活用して義足を普及させる。義足の普及によって、脚を失った人々の雇用がどのように促進され、それがどのようにスリランカ経済にインパクトを与えるかを分析することが研究テーマである。

さらに、スハルナン氏はクラウドファンドで資金を集め、途上国の学校でDr.カーを使った医療検診を広める計画を立てている。今後、インドネシア、カンボジア、ミャンマー、スリランカなどアジアを中心に活動を展開していく予定である。

「Dr.カーのプロジェクトを通して、私たちは貧しい人々との対話を重ねてきました」とスハルナン氏は言う。「そうした人々のためになるビジネスを生み出すことこそ、私たちのやるべき仕事だと実感したのです。途上国と日本を結ぶ架け橋になることが、私に課せられた使命です」