Home > Highlighting JAPAN > Highlighting Japan December 2016 > イノベーティブ・アーティスト

Highlighting JAPAN

ダンスで心をつなぐ

森山開次氏は独自のダンスで世界の人々を魅了している。

森山開次氏は、空間を漂い、切り裂くような革新的なスタイルと能力で知られるコンテンポラリーダンサー、振付家である。1973年生まれの森山氏は21歳でダンスを始め、国内外のダンスカンパニーを経た後、2001年からソロ活動を開始している。森山氏はタップダンス、クラシックバレエ、ジャズダンス等を習熟しているが、森山氏の表現スタイルは、彼の独自のものである。

「躍動感を表現すること、そして、自己の存在をリアルにアピールすることはダンスの魅力のひとつです。しかし、僕は同時に“自分はここにいない”という不在感の表現にも自然と惹かれるようになりました」と森山氏は言う。「ダンスは抽象的なものです。その表現を突きつめていくと“祈り”そのものになっていきます。いわば、目に見えない世界と現実の世界を媒介する巫女が行うような踊りです」

森山氏は能をはじめとする日本の伝統芸能もテーマやモチーフとして取り上げている。ジャンルを超えてそれらを表現するにあたり、彼のパフォーマンスは演劇的にもなり、衣裳や音楽が非常に印象的なことでも知られている。2013年には文化庁から文化交流使に任命され、インドネシア、ベトナム、シンガポールでダンスを通じ、地元の子どもたちやアーティストと交流した。森山氏は、インドネシアのバリのトランス・ダンスで自然と人と祈りが一体になっている状態を目撃できたことは、自身の踊りを再確認するうえで貴重な体験になったと言う。

2016年10月には、代表作のひとつ『KATANA』を、10年ぶりに日本各地で再演した。2005年に最初にニューヨークとモントリオールで発表した時、『KATANA』はNew York Times誌で「脅威のダンサーによる驚くべきダンス」と評された。

「刀というのはきわめて象徴的で深いテーマです」と森山氏は言う。「刀を持つことによって様々な葛藤が心の中に生まれます。人を殺すための武器として使うのか、自分を守るための手段とするのか?強さとは、弱さとは、そして人間とはいったい何なのか?動きの中には静と動のエネルギーが同時に作用しています。静というのは停止ではなく、その中に様々な流れが渦巻いている状態です。身体を動かさずにその渦をどう表現するか。それが今回の再演の大きな課題のひとつでもありました」

また2010年以来、森山氏は『LIVE BONE』という奇抜な骸骨の衣装と、ロック調の音楽によるショーをこれまで国内外20都市以上で上演している。エネルギッシュでコミカルなパフォーマンスは、身体の機能と可能性を表現している。

森山氏がライフワークのひとつとして取り組んでいるのが『世界手洗いダンス』だ。このダンスは、2009年に日本ユニセフ協会からの依頼で、森山氏が10月15日の『世界手洗いの日』を普及させるために振付けた。

「このダンスを通して、子供たちに手洗いの大切さを実感してもらうと同時に、世界の国々と手をつなぐという心を育んで欲しいのです」と森山氏は言う。「世界手洗いの日には毎年必ず子供たちと一緒に踊っています。新しい身体表現を生み出す最初のきっかけとなるのは、一つ一つの出会いです。その意味で、僕にとっては、常に次の仕事が一番の目標であり、挑むべき新たなテーマなのです」