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Highlighting JAPAN

 

遠いからこその魅力


日本の北部の島、北海道で成功を収めている、イギリス出身のショーヤ・グリッグのホテルは、遠くにあることが、大きな魅力になっている。

グリッグさんは、イギリス生まれ、オーストラリア育ちですが、日本でこれまで、どのようなことに携われてきたのでしょうか。

私は24年前、日本語を学ぶために来日しました。日本の映画業界で働きたかったからというのが主な理由でした。すぐさま北海道へ向かい、4ヶ月ほどかけて自転車で北海道を一周しました。ワーキングホリデービザを持っていたので、自然豊かな場所でしばらく過ごした後、働くため札幌に移りました。ただ、知り合いも少なく、必要な日本語のスキルもなかったので、[私の情熱であった]写真家としての仕事はほとんど得られませんでした。しかし、[別の才能であった]DJの仕事に就いたことで、多くの人と出会い、写真家としての仕事も得られるようになりました。その後、メディアデザイン会社を設立し、旅館のオーナー、ビール会社、雑誌社などがクライアントとなりました。日本の雑誌向けに美しい風景写真も撮りました。ただ、メディアデザイン会社を経営しながらも、インテリアデザインの仕事もしたいと思っていました。そして、それを実現する唯一の方法は、自分自身でプロジェクトを始めることだと考えたのです。その頃、[まだ開発されていなかったが、今ではメジャーなスキーリゾートエリアになっている]ニセコが面白そうだと思うようになりました。妻と私は、札幌で建物を見つけるのではなく、[ニセコの一地域である]ヒラフに目を向けるべきだと決めました。私たちは、古いペンションを見つけて改装しました。これはとても有機的で、非常に楽しいプロセスでした。

それがSekkaブランド初のプロジェクトとなったレストランだったのですね。

私がヒラフでレストランを始めた頃、[いくつかの企業が]ニセコのスキー場、スノーボード場にオーストラリア人を呼び込み始めていました。[そうしたオーストラリア人が、]私のレストランに来店するようになり、おいしいワインと、地元の食材を使い日本人シェフが調理したイタリアンを楽しむようになりました。レストランのデザインは、ちょっとエッジが効いていました。古い日本の照明や障子などといったものをたくさん使っていたので、多くの人にレストランが日本的だと感じてもらい、人気店になりました。最初の数年間、私はフロアで働き、現場を仕切っていました。私がこの土地に住んでいることを知ったオーストラリア人のお客さんたちは、「この地域が気に入った」、「この地域には可能性がある」、「ここの土地を買いたいと考えている」と言ってきました。そうしたことがきっかけで、私はいくつかのプロジェクトに関わるようになりました。私は土地を探し、そこに何を建てるかというコンセプトを考えたり、自らの人脈を使って、建築家を雇ったりといったことをしました。

Sekkaブランドで、これまでいくつのプロジェクトを完成させたのですか。

十数件です。数週間前、[ニセコエリア最大の町である]倶知安に新しいレストランとラウンジバーをオープンしたばかりです。最初の頃のSekkaに似ていますが、今回のオープニングの際に、その頃の店よりももっと洗練されていると、ある人から言われました。荒削りな雰囲気にするのが私のスタイルなのですが、ここ10年以上の間に、自らのスタイルを学び続け、改善させてきたと思っています。面白いがらくたやアンティークを買い付けたり、オブジェを見つけたりして、それをどこでどのように使うかをいつも考えています。日本風の窓やドア、照明など、自分が好きなものをコレクションしています。目下、新しいプロジェクトに取り組んでいますが、それは、ある種、私の「庭」で行っているようなことと言えます。私の家の片側には、[高級旅館の]坐忘林があります。そして反対側の崖の上には、栃木県から移築した築150年の古民家の農家があって今、そこを建て直しています。数週間後にはオープン予定で、工芸品店と私のフォトギャラリーを設けます。

坐忘林についてお話し頂けますでしょうか。

坐忘林は1年半ほど前にオープンしました。私は長い時間をかけて日本中を旅行し、いろいろな旅館に泊まってきましたが、そうした中で、日本の旅館に欠けているものにも気づきました。主観的なことではありますが、私は、人を喜ばせることだけをしたいわけではなく、何か独自のことをしたいのです。私が坐忘林で行ったのは、そうしたことです。坐忘林は、他のホテルが集まるヒラフからは離れた山側にあるので、特別な場所となっています。その景色は手つかずのままです。坐忘林はスキー場には十分近い一方で、プライベートな時間を持つには十分な距離があると言えます。この地域のビジネスは季節にかなり左右されますが、坐忘林は一年を通して高い稼働率を維持しています。[著名なホテル経営者の]エイドリアン・ツェッチャは、富裕層にとっては遠く離れていること、そして、そこにたどり着くということが、魅力の大きな部分を占めているのだと私に語っていました。私は、遠隔地にあるということが欠点だとは思っていません。遠いということを事業に活かしているのです。

ニセコ/北海道でさらに事業を拡大する余地はありますか。

観光業は、日本全国で非常に盛り上がっています。観光業が勢いを失うことはないでしょう。宿泊施設の数は不足しています。北海道、そして日本中の小規模ホテルやペンションは、非常に多くの可能性を秘めていると私は思っています。ただ、そうした施設が、行き詰まっているようにも感じます。違う考え方を持ったクリエイティブな人々が十分にいないのか、あるいは、現地の自治体や投資家がリスクを避け、面白いアイデアがある人々を十分に評価していないからかもしれません。