Home > Highlighting JAPAN > Highlighting Japan February 2017 > 科学技術

Highlighting JAPAN

ヘドロを生まれ変える

革新的な泥土改良技術が、東日本大震災からの復興事業に広く活用されている。

水を含んだ軟弱な土砂や水底に溜まったヘドロは、従来、道路や堤防、造成地などの盛り土の材料として使用することはできなかった。これらの泥土は乾燥すると、クラックが発生し、崩れやすくなってしまうからだ。

山形県新庄市の森環境技術研究所は、泥土を盛り土として安心して使える地盤材料へ再資源化する技術「ボンテラン工法」を開発した。この泥土リサイクル技術は、20年以上にわたり、森環境技術研究所の森雅人所長と、東北大学大学院環境科学研究科の高橋弘教授が中心となり進めてきた研究開発の成果である。

「さまざまな土木工事において、泥土は非常にやっかいな存在です。建造物の基礎を作る際は取り除かなければなりませんが、それを埋め戻したり、盛り土として再利用したりすることは難しかったのです」と森氏は言う。「そのため、土木工事で発生する泥土は処分費を払って廃棄し、新たに必要な土砂を購入するのが一般的になっています」

泥土の改良のために、ボンテラン工法では、新聞古紙に特殊加工を施した「ボンファイバー」と呼ばれる繊維質系の泥土改良材とセメント系の固化剤が用いられる。この2つを泥土に投入・攪拌することで、役に立たなかった泥土が質の良い盛り土の材料に生まれ変わる。これは、「ボンファイバー」に含まれる繊維質が土砂の粒子と複雑に絡み合い、強い結合力を発揮するためである。ボンテラン工法によって改良された泥土の耐浸食性(水の浸食に対する強さ)は、通常の砂質土(砂の割合が多い土砂)に比べると約1万倍も高い。

 このボンテラン工法が大きな効果を発揮したのは、2011年に起こった東日本大震災からの復旧工事においてである。この大地震で発生した津波は、森環境技術研究所のある山形県の隣県、宮城県や福島県などの河川を遡上して各地で氾濫を起こした。しかも、津波は同時に大量のヘドロも運んできたため、ただちに河川の浚渫や堤防のかさ上げを行わなければ、大雨などにより再び水害を引き起こす危険性が高かった。

「川底から浚渫した泥土をその場で改良し、堤防の盛り土に利用できるボンテラン工法は、震災からの素早い復旧には欠かせないものとなりました」と森氏は言う。「しかも、泥土の処分費用も、新たに土砂を購入する費用もかかりませんから、従来の工法に比べると大幅なコストを削減することができました」

また、東日本大震災前にボンテラン工法で施工した福島県内の堤防は、強い揺れに襲われたにも関わらず、液状化現象が一切起こっていないことも確認されている。

現在、日本国内でのボンテラン工法による施工実績は、東日本大震災の被害が大きかった東北地方を中心に400件(体積換算63万立方メートル)にのぼっている。従来は無価値であった泥土を再利用することで、環境負荷低減、土木工事費用の削減に大きく貢献するボンテラン工法は、2015年の第6回ものづくり日本大賞「経済産業大臣賞」など、数多くの賞を受賞している。

従来、水を大量に含んだ泥土はバキュームカーなどの特殊車両でないと運搬できなかったが、ボンファイバー工法で改良した泥土はダンプカーや土砂運搬船で運ぶことができる。

「これまでは泥土の発生場所で再利用してきましたが、今後は、ある場所で取り除いた泥土を改良し、別の場所で盛り土に使うといったケースも増えてくるでしょう」と森氏は言う。「これまで数多くの素材をテストしてきましたが、ボンファイバーに優る泥土改良材はまだ見つかっていません。最近は海外からの技術供与の打診も非常に増えています。今後は、こうした要請に対しても積極的に応じていくつもりです」