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Highlighting JAPAN

ニットで世界を包む

力石咲さんはカラフルなニットを媒介にして、人と街の新たな関係性を紡ぎ出すアート活動に取り組んでいる。

力石咲さんは、人や街をカラフルなニットで包み、新たなコミュニケーションを紡いでいくという「ハイパーニットクリエイター」である。

力石さんの作品が最初に脚光を浴びたのは、メディアアートを学んでいた多摩美術大学の卒業制作として2003年に発表した「ManGlobe」だった。これはニットで編まれた地球儀で、5つの大陸にはそれぞれ「目」が付いている。地球儀にはセンサーとモーターが組み込まれており、人が近づくと「目」がウインクするという仕組みになっている。

「1本の糸で編み込んだ地球儀には、世界は一つという意味合いもあります」と力石さんは語る。「どこの人でも、ニットは温かいものと連想します。ニットでくるまれた物に手を伸ばし、触れてみたいという気持ちを人は持っています。この作品を通して、そんなニットならではの魅力に気づきました」

2009年に力石さんは、日本のラジオ局によるプロジェクトの支援を受け、オーストラリアのゴールドコーストに2週間滞在して作品制作を行った。この時、部屋にこもって制作してもつまらないと思った力石さんは、街中でニットを即興で編み、目についた物にどんどん被せていった。

「ニットで物を包むことで街とつながれただけではなく、興味を持った人とのコミュニケーションを生み出すこともできたのです」と力石さんは振り返る。「『これをやれば良いんだ!』と確信できる体験となりました」

その後、結婚して長女が生まれると、子育ての合間をぬって、都内に佇む公衆電話や変圧器やテーブルなど、様々な物を次々とニットで包み、「街を歩いている人に違和感を与えることで、街との新たな関係性を生み出す」作品を発表し続けた。

さらに、2014年からはアート・プロジェクト「旅するニットマシン」を開始した。これは、距離という目に見えないものをニットで可視化することで、ニットが辿ってきた道筋を人々に想像してもらい、人とその場ではないどこかをつなぐ作品である。

このプロジェクトで使うニットマシンは、キャリーケースの上部に編み機が設置されたもので、ケースを転がすと編み機が連動して回り、レッグウォーマーのような編み物が自動的に作られる仕組みになっている。編み物の長さは、移動してきた距離に比例する。

ケースは透明になっており、ニットが編まれていく様子を見ることができるので、ケースを引いていると、すれ違う人から「それは何?」という声がかけられる。その時点で、編み上がったニットで、声をかけてきた人の首や手を包むのである。2014年にマシンを引いて長女と旅したロンドンでは数多くの人に声をかけられ、様々な交流が生まれた。

また、同年に始めた「ニット・インベーダー」は、UFOをイメージした編み機から紡がれる極太のニットで街路樹や手すりなど街中の様々な物を包み、街をニットで「侵略」するというプロジェクトである。2015年10月に大阪で行ったプロジェクトでは、ニットで包まれ川を航行した舟が、大きな反響を呼んだ。

ニットを媒介にしたユニークなアート活動は海外でも注目を集め始めている。力石さんは、2016年12月から2017年2月まで中国・深圳において、「有用無用」というテーマで開催されているパブリック・アート・プロジェクトに招待され、滞在制作、展覧会、ワークショップを行っている。

「ニットは私にとってコミュニケーションの手段です」と力石さんは語る。「もっと多くの国に行って、もっと多くの人と深くかかわり合いたい。自分の活動は、人と人、街と人を繋げる使命だと思っています。都市の研究と私を魅了し続けるニットの技術習得を地道に続け、それをどんどん街にアウトプットしていきたいです」