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Highlighting JAPAN

季節を彩る和菓子

和食の特徴ある側面を紹介する新シリーズの初の記事として、今回は「練り切り」として知られる上品な生菓子に注目する。

水江政彦さんは一つ一つ、さまざまな色をした生地をこね、丸めていく。そして掌を使い、慣れた仕草で「通し」と呼ばれる籐で作られた、ふるいに似た道具にそっと押しつけて通す。

指先で何度か優しく叩くと、そぼろ状になった生地が、まるで極彩色の雪ひらが音もなく降り積もるようにはらはらと、下の作業台へと落ちていく。

丸めた粒餡に水江さんは箸を使って器用にその一つ一つを飾りつける。最後に透明な寒天でできた極小の四角い寒天をいくつか上に載せて仕上げを施す。

数秒のうちに作品が完成した。「あじさいきんとん」という名の生菓子は、満開のアジサイを表現している。紫、白、ピンクの花びらの間には、朝露がそっと光る。

「生地を漉す作業の際、未だに気を抜くことができません」と、京都の和菓子製造販売会社である鶴屋吉信に菓子職人として35年勤務する水江さんは言う。「ある程度の技術は必要ですが、生菓子は本当に美しいと思います」

美は、生菓子本来の特徴と言える。生菓子は、江戸時代(1603年~1867年)から伝わる和菓子の一種であり、日本では最も上等な菓子であると考えられている。事実、その姿を見るだけでも眼福となる。

「和菓子」は日本の菓子全体を指す言葉であるが、生菓子はより洗練された高級な種類である「上菓子」を意味する。上菓子の中でも特に華麗なのが、水江さんが息をのむようなスピードで丸めていたあの彩り鮮やかな「練り切り」である。

「練り切りはすぐに味わっていただくのが一番です」と、鶴屋吉信の担当者は説明する。「生菓子」という語にある「生」は文字どおり「新鮮な」を意味する。

「練り切りの魅力の一つに、季節の情景をうまく表現していることが挙げられます。何世代にもわたって受け継がれてきた、情感溢れる色とりどりのデザインが心を豊かにしてくれるのです」

上菓子はもともと、京都で茶の湯(茶会)を教える茶道家たちが好んで用いた茶菓子である。よって現在にいたるまで、上菓子と緑茶、特に粉末状の高級緑茶である抹茶との間には深いつながりがある。抹茶は、菓子の甘い味に対して渋い味わいをもたらすものとして伝統的に供されて来た。

季節を表現したデザインは頻繁に変わる。夏季に作られるものには、滝、新緑、水蓮、水中花に見立てた牡丹といった涼やかなイメージが表現されている。

もう一つ手の込んだ作品に「星願い(ほしねがい)」がある。これは、天に離れて浮かぶ2つの星、織姫と彦星の間に流れる天の川を巧みに表現したものであり、恋人同士である織姫と彦星が年に一度、夏の七夕祭りの時のみ再会することが許されているという伝説による。

和菓子が洋菓子と一線を画すのは、こうした季節的で文化的な意味合いによるところが多い。しかしさらに明白な違いは、使われている材料に見ることができる。

生菓子のほとんど、特に練り切りには、小豆から作られた甘いペーストと生地を用いるが、生地の材料は、作っているものによってさまざまである。夏季の菓子にはスリガラスのような涼やかな見た目を演出するため、職人は葛粉を使う。葛粉は、葛の根から取れる澱粉であり、日本料理では出汁にとろみをつけるためにも使われる。

また、日本のその他の地域では、生地に餅米が頻繁に用いられる。京都でも、小麦粉を混ぜたり蒸したりすることがある。京都で高級菓子を練り切りという言葉を使う人は少なく、「こなし」(生地のことも指す)あるいは「蒸し菓子」(蒸した菓子)という名の方が好まれるという。

「しかし、現在ではこうした名は取り混ぜて使われるようになり、抹茶以外の飲み物と一緒に召し上がっていただいても良いのです」(鶴屋吉信担当者)。「練り切りは長い歴史を持つものですが、厳格な決まりはないのです。黒文字(クロモジという木から作られるスティックのようなフォーク)で、小さく切ってお召し上がりください」

私は、再度言われるまでもなく、そのお言葉に甘えることにした。