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Highlighting JAPAN

うどんで大騒ぎ!

讃岐うどん、即ちこれだ。

麺は日本の食文化のなかでとても重要な役割を演じている。多くの麺の種類の中でも人気を誇るのが「うどん」だ。うどんは、小麦粉を練って伸ばし細長く切ったものだ。うどんは古くから日本各地で庶民の食べ物として親しまれ、地域ごとに製法や食べ方に特色がある。なかでも香川県の古い地域名を冠した「讃岐うどん」は知名度、人気ともに日本一を誇る。

香川県は四国地方の北東部に位置し、瀬戸内海に面している。温暖な気候だが、降雨量が少なく、稲作の努力もむなしくたびたび干ばつの被害にあってきた。そのため香川の人々は米の代用として麦を育てた。乾燥気味の気候はかえって麦栽培に適していて、良質の小麦が得られた。うどんの材料は小麦粉と塩と水だけのシンプルなものであるため、原材料の良さが要となる。香川県は、穏やかな内海と晴天に恵まれ、古代から塩田が広がる塩の産地なのである。

讃岐うどんは小麦粉に塩と水を加え練られた生地を足で踏むという一風変わった作り方をする。村のうどん作り名人の1人だった祖父が起こしたうどん店を継ぐ三代目、さぬき麺業株式会社の香川政明社長は「体重をかけリズミカルに足踏みすることで、生地に讃岐うどん特有の強い弾力が生まれるのです」と秘訣を明かしてくれた。

そうして出来上がった生地を麺棒で均一の厚さに伸ばし、包丁で切り出すと断面に角の立った麺となる。これを大きな釜に投じる。麺が湯の中で踊るように浮いてきたら透明感のある美しい讃岐うどんのできあがりだ。

こうして茹であげられたうどんを食べるのに欠かせないのが、うどんと一緒に出てくる特別な出汁だ。「讃岐うどんには出汁にも特徴があります。日本の出汁の多くは鰹などの「節」から取りますが、讃岐の出汁は『いりこ』が基本です」と香川社長は言う。いりことは片口鰯を干したもので、これも瀬戸内海の名産品である。

讃岐うどんの歴史はとても古い。伝承では、806年、讃岐地方の生まれである高僧の空海が留学先の中国から製法を持ち帰ったのが始まりとされる。香川県随一の神社、金刀比羅宮の祭礼の様子を表した約300年前の屏風絵には参道にうどん屋が描かれており、今とまったく変わらない製法で作られていたことが分かる。

さぬきうどん研究会の諏訪輝生会長はこう語る。「かつてうどんは、農耕の行事、祭り、正月、半夏(半夏生)、盆など年中行事に合わせて、また寺の法要や祝い、そして共同作業を終えた人々が集う席では必ず食べる特別な食べ物でした。村には必ずうどん作りの名人がいたものです。今でも香川県民はうどんのことになると談義が白熱します。昔の名人たちも作り方の情報を交換しながら、おいしさを極めていったのでしょう」

讃岐うどんは、温かいもの、冷たいもの、つゆにつけるもの、出汁をかけるものなど、さまざまな食べ方がある。最近では食べ方を客の好みに任せるため、香川県にあるうどん店のうち約半数はセルフサービスの形だ。客は茹でた麺だけ受け取り、店内に用意された天ぷらや葱、しょうが、卵などを自由にトッピングし、最後は醤油や出汁を選び、自分好みの讃岐うどんに仕上げる。

「今は香川県民の多くが店でうどんを食べるようになりました。研究会では、うどん文化の伝承のために、子どもたちなどを対象にうどん作りの体験教室を開いています。これが毎回とても好評です」と諏訪会長は言う。また、香川県県産品振興課の荒井理宏主任は「讃岐うどんは「肌・ツヤ・コシ」といって滑らかな舌触りと喉越しとしっかりした食感が特徴です。香川県は「うどん県」と名乗るほど県民みんながこのうどんを愛しています。県内には約600軒のうどん店があり、国内はもちろん最近は海外からも讃岐うどんを食べに訪れる人が増えています」と話す。

近年では、讃岐うどんのおいしさを科学的に解明する動きも活発だ。香川県の農業試験場は、県内のうどん業界と協力して、讃岐うどんに適した小麦の品種改良を行い「さぬきの夢」という小麦のブランド化に成功している。2016年には、国立の香川大学農学部に、うどんについての幅広い知識を学ぶための「うどん学」が開講された。

1000年以上ともいわれる歴史を持つ讃岐うどんは、伝統に科学的裏付けを加えながら、さらなるおいしさを求めて進化を続けている。