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Highlighting JAPAN

水不足のない世界を目指して

宮城県仙台市の企業がミクロネシアで水不足の解決に取り組んでいる。

株式会社いちごホールディングスは、1983年、宮城県仙台市で宅配ピザやレストランなどの外食業として創業した。同社は現在、近年、浄水、海水淡水化、地下水探査など、国内外で水不足の解決にも力を入れている。

「2000年頃から、ピザ生地の原料である穀物の安定的な輸入ができなくなってきました。その原因の一つが、生産国の水不足による生産量の低下でした。それなら、安定的な水供給に貢献することはできないだろうかと思ったのです」と、いちごホールディングスを創業した代表取締役社長の宮下雅光氏は言う。

同社は2008年に海水などを飲料水に変える太陽光発電を使った小型浄水装置を搭載したトレーラーを開発し、主に中東諸国向けに販売を開始した。3年後の2011年、東日本大震災が発生し、地元宮城県を始めとする東北地方に壊滅的な被害をもたらした。同社も宅配ピザの店舗が津波で流されるなどの被害を受けながら、被災地に浄水装置を提供し、生活用水や農業用水の供給支援に取り組んだ。

宮下氏は、震災を通じて、人々の生活に水がいかに重要であるかを改めて実感し、海外で水不足に苦しむ人々ためにもっと浄水装置を活かしたいと考えるようになった。そうした中、国際協力機構(JICA)が水問題に直面する太平洋の国々の支援に力を入れていることを知った宮下氏は、JICAの「中小企業海外展開支援事業」に応募した。事業は、太平洋の島国の中でも水不足が深刻な国の一つ、ミクロネシア連邦で移動式飲料水製造システムを導入するための案件化調査で、2014年に採択された。

約600の島々からなるミクロネシアでは飲料水の多くを雨水や井戸水で賄っているが、国土が狭いため貯水能力が低く、降雨の少ない期間が続くと飲料水は枯渇してしまう。また、台風や高潮などの自然災害によっても飲料水の確保が困難となることが多い。

案件化調査は、ミクロネシアで最も人口が多いチューク州で実施され、同社は水供給の現状やニーズを調査し、浄水装置を現地に適した仕様に改良してデモンストレーションを行った。海水の塩分や細菌、重金属などの不純物を取り除く逆浸透膜を採用する同社の浄化装置は、海水、井戸水、河川水を安全な飲料水に変え、1日当たりの供給能力は4000リットル以上になる。また、一般的な浄水装置に比べてサイズが小さく重量も45kgほどでキャスターが付いているため運びやすく、太陽光やガソリンを動力源として電源を必要としないなどの特徴がある。

「島民の方々の前で、デモンストレーションを行った際に、皆さんから『こんな装置が欲しかった』と非常に喜ばれました。『美味しい』と言って笑顔で水を飲む姿を見ると、本当に嬉しくなります」と宮下氏は言う。

2016年には、さらに改良を加えて使いやすくなった浄水装置10台あまりを現地の井戸や港、病院などに設置した。装置は2018年の普及・実証事業終了後に現地に引き渡される。同社は引き渡し後に現地で装置の維持管理ができるよう、人材育成も手取り足取り支援している。

同社は浄水装置に加え、国内外における地下水探査システムの普及にも力を入れている。これまで様々な探査方法が開発されてきたが、いずれも水脈のおおまかな位置を推定することしかできなかった。しかし同社は特定の周波数の電流を地中に流すことによって地下水脈の位置をピンポイントで把握することができる世界初のシステムを開発した。このシステムを使えば、飲料水や農業用水の確保が容易になるだけではなく、例えば傾斜地の地中に溜まった水の位置を特定して排水すれば、土砂崩れなど災害防止に役立てることもできる。同社は2014年頃から、日本をはじめオマーンやエチオピアなど海外で同システムの販売を開始している。

「世界では水が原因で紛争が発生することも多くあります。水へのアクセスがもっと平等になれば、世界平和にも繋がると思います」と宮下氏は言う。

今後、世界の人口増加や経済成長あるいは気候変動によって、水不足に直面する地域の拡大が懸念されている。同社は、インターネット上で世界の地下水脈を把握できる地図を開発し、水問題の解決に貢献することを将来の大きな目標に掲げている。