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Highlighting JAPAN

ダイナミックマップでより安全な交通を

自動走行運転と「ダイナミックマップ」の開発を含む技術革新によって、より安全な交通システムを確立する産官学の共同研究が進められている。

日本は、科学技術イノベーションによる社会的課題解決や経済再生の実現を目指し、内閣府総合科学技術・イノベーション会議 が中心となって2014年より「戦略的イノベーション創造プログラム」(Cross-ministerial Strategic Innovation Promotion Program。以下、SIP)を推進している。SIPは、産官学連携・府省庁間連携で取り組むべきエネルギー、インフラ、防災など11テーマを対象としており、その一つに「自動走行システム」(Automated Driving for Universal Services。以下、SIP-adus)がある。

SIP-adusは、自動走行システムの実現・普及によって、交通事故の低減、渋滞緩和、また高齢者などの交通弱者にも優しい先進的な交通バスシステムの実現を目的としている。日本は、年間約4000人の交通事故死者数(2016年は3904人)を、2020年までに2500人以下に減らす数値目標を掲げている。交通事故原因の多くを占めるヒューマンエラーの防止には、自動走行システムが大きな効果を発揮すると考えられる。

「SIP-adusでは、各企業が独自に研究開発を行う『競争領域』ではなく、企業単独では取り組むことが難しく、産学官の連携が必要な『協調領域』に絞って研究開発を行っています」と内閣府の竹馬真樹政策調査員は言う。

協調領域の重点テーマの一つがダイナミックマップである。ダイナミックマップとは自動走行用の3次元デジタル地図で、道幅、車線、停止線、道路標識、建物などの地物の情報を載せた「静的情報」(高精度3次元地図情報)に、交通規制、道路工事、気象、信号、歩行者などの「動的情報」を重ね合わせたものである。現在のカーナビゲーションよりもはるかに情報量が多く、道路情報インフラや衛星測位システムなど様々な方法で得られる情報をダイナミックマップに反映させることで、車両は自車の位置や周囲の状況を、高精度で切れ目なく把握できる。

SIP-adusはダイナミックマップに必要なデータの収集の仕組みや技術開発に取り組んでいる。例えば、そのベースとなる高精度3次元地図情報は、衛星による測位や、カメラ・センサーが搭載された専門的な測量が可能な車両を走行させて集めた情報を基に作成される。2017年6月には、株式会社産業革新機構と電機、自動車、地図制作などの企業が出資する「ダイナミックマップ基盤株式会社」が設立され、全国の高速道路の高精度3次元地図作成に着手している。

「ダイナミックマップの開発はSIP-adusの大きな成果の一つです。車線や道路標識など、どのような情報を静的情報に入れるかという仕様が決まりました。現在、日本はISO(国際標準化機構)に静的情報の国際標準化を提案しています」と竹馬さんは言う。

2017年3月より、沖縄県の公道で、ドライバーが乗車した小型バスを使った実証実験が始まっている。アクセルと操舵装置を自動制御し右左折を行う、停止線で減速・停止をする、路肩の駐車車両を回避する、停留所に隙間なく正確に横付けするなどの自動制御技術が検証されている。同年10月末からは、車両の位置情報の誤差を数センチまで縮められる、準天頂衛星システム「みちびき」(参照)からの信号を、高精度3次元地図に取り込んでバスを自動走行させる実験も始まっている。

首都圏でも同様に2017年10月から、首都高速道路や東名高速道路など約300kmの区間で、海外を含む自動車会社など21機関が参加して、ダイナミックマップとヒューマン・マシーン・インターフェース(以下、HMI)を検証する大規模実証実験が始まっている。HMIは、ドライバーと自動走行システムとの間の意思疎通を円滑に行うための技術である。今回の実証実験では、自動車にドライバーモニターカメラを設置し、自動走行と眠気の関連性やドライバーの運転意識の集中度の計測などが行われている。

「実証実験のデータを蓄積して、技術の高度化につなげるとともに、実験の成果を国際的にも発信したいと考えています」と竹馬さんは言う。

2020年の東京2020オリンピック・パラリンピック競技大会では、ドライバーを支援し、自動制御で停留所へ正確に横付けするバスの導入も検討されている。日本は、2020年を重要な契機として、安全な道路交通システムのさらなる高みを目指している。