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Highlighting JAPAN

 

地方創生のポイント


政府のまち・ひと・しごと創生本部の下に設置された「まち・ひと・しごと創生会議」のメンバーを務める増田寛也・東京大学公共政策大学院客員教授に、地方創生の要点を聞いた。

「地方創生を推進する政策」の背景を教えてください。

地方創生の背景には人口動態の大きな変化があります。2008年、日本の人口は減少期に入りました。人口減少による地方経済の疲弊を食い止め、立て直したいということが地方創生の目的です。

人口動態の問題は、全国均等に人口減少しているのではなく、地方の若い人が進学や就職のために東京に流入する状況が非常に強く進んでいるため、このままでは地方の労働力が著しく欠けるということにあります。同じような状況はアジアの大都市でも起きており、都市化の一つの現象かも知れませんが、とにかく正確な危機感を持って臨む必要があります。

この認識の下、2014年10月に、総合戦略がまとめられました。5年計画の3年を経過し、様々な取組が広がっています。しかし、5年で成果が上がるほど簡単な問題ではありませんから、戦略を見直しながら息の長い政策を続ける必要があります。今は、その最初の段階に取り掛かったところだと思います。

「まち・ひと・しごと創生会議」が特に重視しているポイントを教えてください。

一つは若い世代に政策を集中させ、学びやすさ、働きやすさをもっと強く後押しすることです。若い世代が収入を得て、結婚し子供をもうけて次の世代へつないでいく循環を立て直そうということです。特に一極集中の東京の合計特殊出生率は1.24で、全国平均1.44より低くかつ全国で最も低いことを念頭に、待機児童解消、子育て相談窓口など、従来よりも厚みのある少子化対策も重要です。

二つ目は、最も重要なことですが、地方に魅力ある職場を整備することと東京から地方に向かう人の流れを作ることです。

三つ目は、そのために間断なく生産性向上や成長力を底上げする政策を投入し、現在、全国で起きている産業の活性化をさらに促進していくということです。

人口減少下で産業を活性化させるポイントはどこにあるとお考えですか。

例えば、若い世代の雇用拡大、AIやロボットによる生産性向上です。私は、人口減少期は産業構造を見直し生産性向上に取組む良い時期だと思います。特に生産年齢人口が減少し人手不足が激しくなれば、従来の仕事の在り方を見直す必要に迫られます。以前なら「ロボット化」で「人間の職を奪うのか」といった声もありましたが、今は、初期コストを抑えたロボット導入など、様々な可能性を探る動きが強くなっています。日本は世界で最初に超高齢社会に突入したのですから、その最先端で様々なことを試す立場にあると思います。

この挑戦は、日本だけではなくアジアや他の国々の参考にもなるし、成功すれば制度や仕組みを海外に輸出して、日本がまた稼ぐチャンスにつながるでしょう。

若い世代への期待は大きいですね。

若い世代は生活にAIやロボットを取り入れることに大胆で、発想も豊かです。これからの社会をどう作り上げていくかは、思い切って彼らのアイデアに任せ、そして支援するのがいいのではないでしょうか。それが社会の進化だと思います。

シェアリング・エコノミーの時代で物が売れないと心配するより、若い世代のシェア・ビジネスに対する柔軟な発想を活かす仕組みを優先してみることです。政府は応援するけれどあまり口を出さない仕組みをどうしたらいいのか、これから試されることになるでしょう。

今後の展開に期待される可能性、方向性を教えてください。

地方都市では、新しいビジネスや仕事を作り出すのが容易ではない、移動さえ大変といった問題があります。しかし、近年、そういう地方に日本の魅力を見出し、ネットで見つけた民泊を予約して訪日する人々が増えていることも事実です。受け入れる側もスマホ一つで対応できる時代です。こうした変化に敏感な人材が自治体にいれば、対応を任せてしまえばいいと思うのです。発想豊かな変化が起きるだろうと思います。

例えば、日本の魅力的なコンテンツには、国内各地に神社仏閣や郷土芸能やお祭りがありますし、収穫期の農家では「収穫体験」や新鮮な郷土料理もあります。地域のWi-Fi環境を整備し、こうしたコンテンツを少し工夫していけば、訪日客もスマホの自動翻訳で理解を深めることが可能な時代です。

近年は格安航空や地方空港の国際便が増え、地方のチャンスは高まっています。

地方創生の今後の展望について、お考えを教えてください。

人口構造が大きく変わりますから、「地元に一番良い」形で生き残っていくにはどうしたらいいかを思い切って柔軟に議論していくことが重要です。

地方創生がスタートして4年目に入りましたが、全国でそうした議論の下地が出来上がり実績も積み上がっていますから、後は実行に移していく段階です。

超高齢社会の先頭を行く日本の取組を必ず成功させて、全国各地に広がる地方創生の経験を世界にきちんと伝えることが必要だと思っています。