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Highlighting JAPAN

“未来を創る”リーダー育成

東日本大震災を機に立ち上がった地域の人材育成の取組が、地域創生を担う国家的モデルとして注目を集めている。

民話の里として全国的に有名な遠野市は岩手県の南東部に位置する人口約2万8000人の地方都市である。多くの地方都市同様、遠野市も少子高齢化や人口減少といった課題を抱えているが、2014年4月、“遠野みらい創りカレッジ(以下:カレッジ)”という人材育成の場が誕生した。遠野市と協働で、このカレッジの設立を果たしたのは、東京に本社を置く富士ゼロックス株式会社だった。

同社復興推進室室長で、カレッジの代表理事も務める樋口邦史さんは「そもそもカレッジ開設のきっかけは2011年の東日本大震災でした。津波による被害の大きかった三陸海岸などで、当社が納入した複合機約4000台余りが津波に流されてしまい、早急な対応が求められていた時のことでした」と当時を振り返る。

現地の支援に同社復興推進室から7名の社員が派遣され、その支援拠点の一つが三陸海岸から約30㎞内陸にある遠野市だった。

「復興支援を行いながら、現地の人達の話を聞いてみると、遠野市は震災の被害が少なかったものの、将来に向けた大きな課題があることが分かってきました。市内にも近隣地域にも大学がなく、就職先も多くないため、地域の次世代を担うはずの若者たちが進学や就職を機に故郷を離れてしまうのです」と樋口さんは語る。

復興支援の傍ら、樋口さんたちが考えたのは“みらい創りキャンプ”という活動だった。震災の翌年から開始し、遠野市内の古民家などの施設に遠野の住民だけでなく、岩手県内や首都圏の大学生や研究者、企業の社員など50人ほどを集め、富士ゼロックス独自のコミュニケーション手法を取り入れ、遠野の未来について自由に意見を交わした。

「様々な立場の人が自由に意見を交わすことで、遠野が抱える真の課題を見つけ、解決に向けた創造的なアイディアを生み出すことが目標でした。1年余り活動を続けるうちに、地元の人たちの問題理解も解決に向かう意欲も高まったのです。そして、遠野市の協力を得ることで、廃校となった中学校を拠点とするカレッジ設立という形に結実しました」

現在、カレッジでは地域住民を中心に産官学が集い、交流・暮らし文化・産業創造という3つのカテゴリーで7項目の主要プログラムを実施している。例えば、地域リーダー育成を主眼においた研修等の課題発掘・プロジェクトなどがあり、設立から3年間で、累計約1万4000人が参加している。これらのプログラムを通じて地域創生を牽引する人材を発掘・育成し、実際のプロジェクトを動かしていこうというのがカレッジの大きな目標である。

2016年8月にはカレッジで「東京大学イノベーション・サマープログラム」を開催した。これは東京大学の学生や世界中から選抜された大学生が地元遠野市の高校生達と共同生活を送り、一緒に遠野を知りその魅力を発見し、地域創生のアイディアを創り出そうというプログラムである。

「カレッジは富士ゼロックスの復興推進活動の一環としてスタートしましたが、設立3年目には一般社団法人化し、一時的な補助金などに頼らず自走できる、持続可能な経営を目指しています。そのために必要なのは、何よりも運営に参加する地域の人々との信頼関係です。自立的に活動を継続させ、今後の具体的成果を生み出していくためには、有料プログラムの充実がより一層重要になっていくでしょう」と樋口さんは言う。

スタートから4年近くが経ち、遠野みらい創りカレッジは、地域コミュニティと密接に結び付きながら、遠野市以外の多種多様なステークスホルダーとの協力も生まれ、共通価値の創造が生まれ始めている。

産官学民が連携し『ふれあうように学ぶ』というコンセプトを掲げてきたカレッジは、今後、人材育成と子育て支援や、エリアマネジメントや独自の産業創造などさらに幅の広い問題に取り組むこととしている。

地方が抱える問題解決に挑む事例は数多くあるが、カレッジの取組は人材育成こそが未来を切り開くという「遠野モデル」として期待と注目を集めている。