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Highlighting JAPAN

農業を変える

国家戦略特区iの兵庫県養父市は、前例のない農業改革を実践、農業の六次産業化のモデルになろうとしている。

兵庫県北部に位置する人口約2万4千人の養父市は全域が過疎・豪雪地域である。市の推計によると、2060年に人口は1万人を割り、高齢化率47.4%になると見込まれている。農業従事者の高齢化や耕作放棄地拡大の問題を抱えていた養父市は基幹産業である農業を柱に、国が経済社会構造改革を進める枠組「国家戦略特区」に申請、2014年5月、中山間地域ii農業における改革拠点として指定された。これにより、企業の農業参入に関する要件が大きく緩和された。養父市は資金と経営知識を持つ民間事業者との連携を図り、耕作放棄地の再生、農作物・食品の高付加価値化等の革新的農業を実践し、農産品の輸出も視野に入れた農業モデルに取り組んでいる。

国家戦略特区に指定された当初は、国が耕作放棄地を解消するという誤解や、企業は農業に参入しても経営がうまくいかなければ撤退してしまうなどの不安が地元農家の間でささやかれた。前例のない市の挑戦に対して「地域内外から厳しい意見を受けました。しかし、私たちは養父市の農業を変えるチャンスと捉え、地元の農業関係者や市民と協議を重ねました。お陰で、現在では市民も行政も一体となって政策に打ち込んでいます」と養父市の企画総務部国家戦略特区・地方創生課長の谷徳充さんは話す。

日本の法律では、一般の土地や家屋の売買とは異なり、農地売買の場合には農業委員会という組織の許可が必要となる。また農地を法人が購入するためには一定の要件を満たす必要がある。農地を維持するために制定された法律であるが、新規就農、新規参入の壁を高くしており、過疎化が進む中、人手不足、後継者不足と相まって、耕作放棄地の増加の要因の一つとなっていた。養父市は国家戦略特区の指定により、この壁が取り払われ、新規就農を考える多種多様な人材に機会を提供する場所となった。

現在、養父市では13の企業が地元農家と協力して新規に農業法人を立ち上げたり第2創業として農業参入したりするなど、生産から加工販売へと六次産業化(参照)が進んでいる。

養父市外から参入した株式会社Amnakは、養父市能座地区にある約9ヘクタールの休耕田を再生させ、酒米の生産から収穫、精米を一元管理、地域の酒蔵と連携しブランディングを施した日本酒を台湾に輸出している。「10年20年と放棄されていた田んぼに水が張られ、稲穂がよみがえるなんて夢にも思わなかった」、「事業がぜひとも成功し、美しい棚田の風景をこのまま残して欲しい」という地区住人の声に触れ、「養父市は農業参入企業に感謝すると同時に行政の立場から、農業を継続して行ける支援策を練っています」と谷さんは話す。

市内で製本業を行う兵庫ナカバヤシ株式会社は、業務の衰退に対応し閑散期の業務平準化を図るため、養父市内の高台と低地の両方でニンニク栽培を始めた。寒暖差を利用し異なる種類のニンニクを栽培すれば、植え付けや収穫時期をずらすことが可能となる。同社はこの特性と地形を活かした事業展開で、養父市をニンニクの産地に導こうとしている。同社はこれまでも市内に二つあった製本工場のうちの一つを完全人工光型植物工場に転換させてレタスなど葉物野菜栽培を始め、今年度には養父市の農業高校卒業の新入社員を採用している。

また、養父市が100%出資するやぶパートナーズ株式会社は、新規農業参入企業にコンサルティングを行い、養父市の生産物をブランド化するために新規流通ルート開拓を行っている。同社は市の特産品である朝倉山椒の販路拡大支援に乗り出し、2015年7月のミラノ万博での売り込みにより海外のシェフに好評を博した。これを機に、現在ではフランス、イタリア、イギリスに輸出されるようになっている。同社では山椒のほかにも、ミニパプリカや食用ホオズキなどの収入増加の見込まれる農作物を試験的に栽培し、新規就農者への奨励作物として提案している。

国家戦略特区の指定を受けて本来の地場産業を活性化させた養父市は、今後も農業をキーワードに人が集まってくる持続可能な農業の町を目指し、地元農家や参入企業が農業事業を展開しやすい環境整備を整える計画を練り続けることとしている。



i 国家戦略特区とは、特定の地域や分野を限定して規制緩和や税制上の優遇措置などを行うことで、民間事業者が経済活動しやすい環境を作り、新たな投資や人材を呼び込んで地域経済の活性化を目指す政策。
ii 中山間地域とは、平野の外縁部から山間地を指す。