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Highlighting JAPAN

災害検知を速める新たなネットワーク

自然災害の被害軽減を目指した、全国の陸域と海域を網羅する新たな地震・津波・火山観測網の運用が始まっている。

2017年11月、国立研究開発法人防災科学技術研究所(以下:防災科研)は、地震の被害を可能な限り軽減するため、全国の陸域と海域を網羅する世界最大規模の地震・津波・火山の観測網である「陸海統合地震津波火山観測網」(通称MOWLAS:Monitoring of Waves on Land and Seafloor)の本格運用を開始した。

防災科研はこの観測網から得られたデータを集約し公開している。防災科研の地震津波火山ネットワークセンター長である青井真さんは、「MOWLASは、われわれが20年余りかけて整備してきた観測網です。きっかけは1995年の阪神・淡路大震災でした。この地震は活断層が引き起こした直下型地震で、日本ではいつ、どこで発生しても不思議ではないタイプの地震でした」と話す。

MOWLASの観測点は陸域だけでも約1900ヶ所あり、日本の国土をくまなくカバーしている。その大きな特徴は、人間が感じない小さな揺れまで記録する高感度地震観測網(Hi-net)、ゆっくりした揺れから速い揺れまで計測できる広帯域地震観測網(F-net)、そして強い揺れを確実に記録する全国強震観測網(K-NET)と基盤強震観測網(KiK-net)という3種類の観測網が組み合わされている点である。さらに、国内16の火山に整備されている基盤的火山観測網(V-net)があり、様々な地震の揺れに加え火山活動による揺れももれなく観測することが可能な体制を整えている。観測データは24時間途絶えることなく、リアルタイムで防災科研や気象庁を始めとする関係機関へ送られる。

「2011年の東日本大震災以降、新たに海域における観測網の整備も進めました。東日本大震災では、従来の予測を超える大きな津波が発生し沿岸地域に甚大な被害をもたらしたためです」と青井さんは語る。

新しく整備されたのは日本海溝海底地震津波観測網(S-net)である。観測網の構築に当たり、地震計や津波計が一体になった観測装置が150ヶ所、房総半島沖から北海道沖の海底に約6年がかりで設置された。2016年4月には、巨大地震の発生が懸念される紀伊半島沖や四国沖に国立研究開発法人海洋研究開発機構が設置した地震・津波観測監視システム(DONET)も防災科研に移管され、海で起こる地震や津波も震源の近くで検知し、迅速かつ精度の高い情報伝達が可能になった。

「陸域だけでなく海域もカバーするMOWLASの観測網を運用することで、東日本大震災のような海溝型地震iなどは、従来に比べると地震の揺れを最大30秒程度、津波の発生を最大20分程度早く検知できるようになりました。そのため、緊急地震速報や津波即時予測の高度化などに貢献できるため、皆さんの安全・安心に大きく役立つことが期待できます」と青井さんは語る。

 このほか、防災科研は、東日本、東海、西日本の旅客鉄道株式会社3社と協定を結び、MOWLASの海底地震計データを鉄道制御に活用する取り組みが始まっている。東北新幹線と上越新幹線の一部ではすでにこのシステムが稼働し、従来よりも最大約20秒早い列車の制御を実現している。

 「今後はMOWLASで得られた膨大なデータを活用して、大地震が発生した時の揺れを瞬時に予測したり、津波の襲来から収束までの全過程をシミュレーションしたりするなど、様々な技術を開発していく予定です。MOWLASによる観測データや研究成果は、関係省庁や研究機関、大学やインフラ企業などと共有するだけでなく、インターネットを通じて広く一般にも公開していますので、国民一人一人の防災意識を高めることにも役立つと思います。さらに海外の地震研究者などからも大きな期待が寄せられています」と、青井さんはMOWLASの可能性を語る。

わずか数十秒といえども、MOWLASによって災害発生までの時間を稼げることは、インフラ確保と減災に効果を発揮することは間違いなく、今後の更なる研究と世界への貢献に期待が寄せられる。




(注)
i  海溝型地震は、陸側のプレートと海側のプレートの境界である海溝やトラフ付近で発生する。海溝型地震には、プレートの境界での断層運動により発生するプレート境界(プレート間)地震と海側のプレート内部での断層運動により発生するプレート内地震がある。