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Highlighting JAPAN

命を救う防災教育

危機管理アドバイザーの国崎信江さんは、女性、母親の視点を生かし、防災手法を多くの人に伝えている。

危機管理教育研究所の代表を務める国崎信江さんは、全国の学校、企業、地域などで開催される防災に関する講演やセミナー、ワークショップやイベント、テレビ番組など様々な場を通じて防災教育の重要性を呼びかけている。多い時には年間200回を超える。彼女は女性、母親の視点を生かし、防災教育を訴えながら、防災教育ツールや防災用品の開発にも取り組み、有識者として政府や地方自治体の防災関連会議にも携わっている。

「防災に関心を持ったきっかけは、1995年の阪神・淡路大震災でした。近代都市の神戸市が未曽有の被害を受けて壊滅状態になったことに衝撃を受けました」と国崎さんは言う。

国崎さんは阪神・淡路大震災により防災の知識が乏しいことを自覚し、知識を深めたいという強い思いから神奈川県立図書館で地震や防災関連の書籍を数百冊読んだ。そこで彼女は、防災関連の書籍はほとんど男性の視点で書かれていることに違和感を覚えた。また、阪神淡路大震災の被害の状況から、これまで日本に古くから伝わってきた感覚的な防災対策を見直し、現代の社会環境や社会構造を踏まえた科学的な根拠に基づく新しい視点での知見を普及させることが重要だと感じ、その防災手法を提唱してきた。 そして、彼女は独自の視点でこれまでの防災の固定観念を覆す新しい防災の知見をとりまとめ、2001年に本を出版した。これが、従来にはなかった防災教育の本として注目を集め、講演や執筆依頼が寄せられるようになった。

国崎さんは、講演、書籍、テレビ、ラジオなどの活動を通して、災害に備えることが平時の生活の一部として根付くことの重要性を伝えている。例えば、災害時にだけに使用する防災用品よりは、日々の生活で使用している日用品や食料を災害時に生かす方法や、無理なく災害に備える暮らしをするための生活習慣や自分の趣味や日々の活動に防災を取り入れていく方法を紹介している。子供たちを守る大人向けはもちろんのこと、国崎さんは子供たち自身に向けた防災教育にも力を入れている。小さい時から自分の命を守る意識を育み、具体的な方法を体得させている。例えば地震発生時の「ダンゴムシのポーズ」である。これは、後頭部を両手で守りながら地面に膝をついて、ダンゴムシのように背中を丸めた姿勢をとって落下物などから身を守るポーズである。また、卵の殻の上を歩くという体験もある。地震でガラスが割れれば、避難時にその上を通らなければならない。ガラスの代わりに卵の殻を踏むことで疑似的に危険を学ぶ体験ができる。

「日本は防災先進国といえども子どもが発達段階に応じて学べる防災教育ツールは十分ではありません。子どものときに学んだり体験したりしたことが後の人生に影響を及ぼすこともあるので、できる限り子どものときから防災に触れる機会を創出したいと思っています。絵本、漫画、ビデオ、ゲーム、教材など多様なツールを開発し、子供が防災意識に目覚めるきっかけ作りに取り組んでいます」と国崎さんは言う。

国崎さんのこうした活動は国内だけではなく、海外の被災地にも及ぶ。スマトラ島沖地震が発生した翌年の2005年には、津波により深刻な被害を受けたインドネシアのスマトラ島を訪れ、小中高校生に絵本や漫画などを教材として地震や津波から身を守る防災対策を伝えた。この時、現地で津波の恐ろしい爪痕を目の当たりにした彼女は、帰国後、津波対策を一層強調するようになった。

2011年3月の東日本大震災の約1ヶ月前、国崎さんは津波の被害を受けた岩手県大船渡市で講演を行い、参加した母親たちにスマトラ島の津波被害の写真を使い、地震発生後は急いで高台に逃げるよう強く訴えた。

後に参加者の一人から「国崎さんの話を聞いていなかったら逃げていなかったかもしれません」という連絡を受けた。「幸い講演会の参加者は全員が無事だったそうです。災害について知っているかどうかで、生死を分ける可能性もあります。私は誰もが日常生活の一部に防災をうまく取り入れ、安心して暮らせる社会を実現するために、防災教育を発信しています」と国崎さんは強調する。

国崎さんは今、スマートフォン向けのアプリなど、新たな防災ツールの開発を試みている。災害の悲劇を繰り返さないという強い思いを胸に、彼女は防災教育の進化を目指し活動を続けている。