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Highlighting JAPAN

海底にあるエネルギー資源

日本列島周辺海域の海底地層に存在するとされている天然メタンハイドレートの商業化に向けた研究が進められている。

日本近海に眠る「燃える氷」として知られるメタンハイドレートという物質が近年、注目を集めている。メタンハイドレートは天然ガスの主成分であるメタンを含む海底資源であり、日本列島周辺の水深500メートル以深の海底面下の地層に存在するとされている。メタンは燃焼時の二酸化炭素が石炭の約半分という特徴を持つため、都市ガスや発電燃料、燃料電池などのエネルギー源としての利用が期待されている。独立行政法人石油天然ガス・金属鉱物資源機構(以下:JOGMEC)は、MH21(メタンハイドレート資源開発研究コンソーシアム)の一員として、新しいエネルギー資源として期待されているメタンハイドレートの研究開発を行っている。

「メタンハイドレートは、ゲスト分子を水の分子がかご状に取り囲んだ包接水和物と呼ばれる物質の一つで、低温高圧の環境では固体です。人工的に作ったメタンハイドレートは、氷のような姿で、常温下で火を近づけると放出されるメタンに引火して燃え上がり、その後に水だけが残ります。このため『燃える氷』とも呼ばれています。」とJOGMECのメタンハイドレート研究開発グループ開発生産チームの中塚善博サブリーダーは言う。

経済産業省の『我が国におけるメタンハイドレート開発計画』を受けて、2001年から MH21による本格的な研究開発が始まった。まず海底の地層にメタンハイドレートがどのように存在し、メタンをどう取り出すか検討するところから着手し、2002年と2007〜2008年にはカナダで2回の陸上産出試験を行った。2013年3月には愛知県~三重県沖合(第二渥美海丘)において海では世界初となる第1回海洋産出試験を実施した。同試験では、6日間連続でメタンガスの生産が確認された。さらに2017年4月から同海域で第2回海洋産出試験を行い、36日間にわたりメタンハイドレートの生産を確認した。

「我々が用いている減圧法と呼ばれるメタンハイドレートの生産手法は、洋上の船から海底面下に井戸を掘り、ポンプで井戸内の水を汲み上げることで圧力を低減(減圧)させ、メタンハイドレートの濃集する地層から分解したメタンを取り出すという方法です。一般に石油や天然ガスは地下数千メートルという深さの固い岩盤の下にあるが、メタンハイドレートは海底面下では数百メートルの深さにあり、掘削は在来型の資源と比べると短期間で済みます。一方、高圧下にある石油や天然ガスは井戸を掘ってしまえば自噴しますが、地中に固体として存在するメタンハイドレートの場合は温度圧力環境が変わらない限り分解しないため自噴しません。メタンをいかに分解させ、効率的に取り出すかは技術的に難しい点です」と中塚サブリーダーは語る。

メタンハイドレート開発計画の最終的な目標は、もちろん海底面下にあるメタンハイドレートから効率よくガスを生産し、陸上まで運んで商業化することである。

「将来の商業化に向けて、メタンハイドレートの研究開発は、まだ第一歩を踏み出した段階に過ぎません。第1回から第2回の海洋産出試験までの4年間においても、第1回試験の際に確認された課題解決のための技術検討を進め、研究開発は着実に進んでいますが、まだまだ多くの課題があります。今後は、民間の会社などと協力しながら、目の前にある課題を一つ一つ解決していくことが重要になるでしょう」と同グループの宅間之紀担当審議役は言う。

メタンは天然ガスの主成分で、燃焼時に二酸化炭素や大気汚染物質の放出が少ないので、石炭などの他の燃料よりクリーンなエネルギーである。メタンハイドレートが存在し得る低温高圧環境は、世界的に見れば深海の海底面下ばかりでなく永久凍土層地帯などにも広く分布している。

MH21が物理探査結果などから行った試算によると、東部南海トラフの濃集帯には日本の液化天然ガス輸入量(2011年)のおよそ5年半分の原始資源量が存在すると推定されている。このほか日本近海の海域の一部にメタンハイドレート濃集帯が確認されており、将来の商業化を目標とした今後の研究開発に大きな注目が集まっている。