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Highlighting JAPAN

山並みと森林、渓谷と洞窟の地

埼玉県、東京都、山梨県、長野県にまたがり、東西約70km、南北約40kmの広さを誇る秩父多摩甲斐国立公園は、首都圏に最も近い森と渓谷の山岳公園である。

秩父多摩甲斐国立公園は、北奥仙丈岳(2,601m)を最高峰とし、金峰山、甲武信ヶ岳、雲取山など標高2,000m級の高峰が連なる奥秩父山塊と、その周辺の大菩薩嶺、両神山、御嶽昇仙峡、奥多摩など、山岳と渓流が特徴である。山岳地帯でありながら、火山が一つも存在しないという特徴も持つ。奥秩父山塊は、千曲川(信濃川)、笛吹川(富士川)、多摩川、荒川など関東・本州中部の代表的な河川の源流と分水嶺に当たる。これら河川の浸食により、公園内には急峻なV字谷が発達し、険しくも美しく、変化に富んだ景観を見せる。国立公園の中で首都圏に最も近く、年間を通じて約1400万人が訪れ、自然との触れ合いを楽しんでいる。

東京駅から2時間ほどで、公園内の東側のスポット、鳩ノ巣渓谷がある鳩ノ巣駅に着く。渓谷は駅から徒歩10分程度。水流で浸食された巨岩や奇岩が500m先のダム湖・白丸湖まで続く。この一帯は紅葉の名所として知られるが、特に渓谷を一望できる吊り橋、鳩ノ巣小橋からの眺望は素晴らしく、人気のスポットとなっている。

公園の東側のほとんどは石灰岩層を含む堆積岩地帯であり、鍾乳洞が点在している。中でも関東地方最大級の規模で知られるのが日原鍾乳洞である。総延長1270m、高低差は134mあり、約40分の洞内めぐりでは、石筍、石柱が林立する幻想的な空間が続く。洞内はライトアップされ、中ほどには天井から滴り落ちる水を利用した水琴窟iが一層神秘的な妙味を加えている。

公園の中央北部には、古くから山岳信仰の対象として知られる三峯神社がある。信仰の中心は三峯神社の神の使いである狼で、一般に「お犬様」として信仰の対象となった。一般的な神社の守護神が狛犬であるのに対し、三峯神社は狼が守護神であり、神社の各所に狼が祀られている。

境内に建つ本殿と拝殿は特に装飾が美しい。1661年に造営された本殿は銅板噴きの屋根に、漆と極彩色が施され、1800年に建立され1962年に改修された拝殿は、奥秩父の花木百数十種を描いた内部の格天井、そして建物の鮮やかな透かし彫りが施されている。

三峯神社より西側に、東京湾にそそぐ荒川の上流がある。その水流によって浸食されたV字渓谷の急勾配の上には江戸時代主要街道をつなぐ要所があり、栃本関所が置かれていた。この関所は、江戸時代以前は侵攻の警備、江戸時代には人や鉄砲の出入りを監視する役割を担った。明治になって関所は役目を終えたが、関所跡に残された江戸時代後期建造の屋敷は、関所役宅の形態を伝えるものとして、1970年に国の史跡名勝天然記念物に指定された。さらに関所跡の目の前に広がる渓谷の斜面に民家が点在する様子は江戸時代の風景を彷彿とさせる美しさがある。

この公園を代表する景勝地として知られるのが、公園の西端南に位置する御嶽昇仙峡である。日本一の渓谷美とうたわれ、1953年には国が指定する史跡名勝天然記念物の中でも特に重要な「特別名勝」に指定されている。御嶽昇仙峡のシンボルである覚円峰は渓谷の水面からほぼ垂直に屹立する高さ約180mの巨岩であり、その白く輝く断崖絶壁を、夏は松の緑、秋には紅葉の赤や黄色が一層引き立たせる。麓の仙娥滝から長潭橋まで5㎞余り続く清流は、周囲の奇岩、巨岩、そして季節ごとの木々の彩とあいまって、雨と雪さえ彩として、絶えず美しい景観を見せる。

御嶽岳仙峡は、江戸時代から多くの画家を引き寄せ名画の題材とされてきた。景観に加えて、公園内の郷土料理や美食を旅物語としてSNSに投稿したくなる、秩父多摩甲斐国立公園は、そんな魅力にあふれている。


(注)
i 江戸時代に考案された日本庭園の装飾の一種で、手水鉢の近くの地中に埋めた空洞の鉢に水滴を落下させ、鉢の中に落ちた水が反響してくる音を楽しむ仕掛け。(参照