Home > Highlighting JAPAN > Highlighting Japan July 2018 > ジャポニスム

Highlighting JAPAN

 

 

日本庭園-海外でも人気の理由

海外にある日本庭園の中で最も美しく本格的と言われる米・ポートランド日本庭園は、2017年のリニューアル後、年間約45万人が訪れ、人々を癒している。

海外で日本庭園が初めて造られたのは約120年以上前に遡る。当時、欧米で開催された国際博覧会において、政府が日本文化を紹介するために、美術工芸品の展示と合わせて庭園を造営した。第二次世界大戦によりその流れは一時中断されたが、戦後、姉妹都市を結んだ街に、友好のシンボルとして日本庭園が造られた。

現在、世界中に500以上の日本庭園がある。その中で最も本格的と評価されているのが米国オレゴン州にあるポートランド日本庭園である。ポートランド日本庭園は、戸野琢磨・東京農業大学教授の設計で1967年に開園した。約14,755坪の敷地内に、様式の異なる8つの庭と、建物3棟が配されており、年間45万人が訪れリピーターも多いという。

ポートランド日本庭園でガーデン・キュレーターを務める内山貞文さんは、海外の日本庭園の魅力とは伝統的な日本文化の美を体感できると共に、人を癒す力を備えていることだと言う。「人は自然から創られているため、心身が疲れたときには自然の中で癒されたいという気持ちになります。この気持ちは国籍や人種が違っても同じなので、海外においても、植栽や石、池等を用いて自然界を再構築した日本庭園に多くの人が魅かれるのでしょう」と語る。

2017年、ポートランド日本庭園は2年に渡る大規模な拡張工事を完了した。工事は、癒しの場としての魅力を高めることが目的だった。「庭園は静かな場所であるべきなのに、人気の高まりによりそれが難しくなっていました。このため、既存庭園の周囲に園路やベンチを設けたり、文化施設やカフェ等の建物を新しく建てたりすることで来園者を分散させ、庭園内の混雑を緩和させました」と内山さんは説明する。

新設された建物は、2020年東京五輪の主会場となる新国立競技場を手掛ける建築家の隈研吾さんが設計した。日本の伝統的家屋を彷彿させるデザインは庭園と美しく調和し、環境性能評価LEED認証を得るなど環境へも配慮されている。

日本庭園は世界の国々で日本文化を伝え、文化交流の役割を果たし、訪れる人を癒しているが、予算不足や管理人材難により手入れが行き届かない庭園があるという。この問題に対し、国土交通省は海外日本庭園再生プロジェクトを2017年に開始した。プロジェクトにより荒れた庭園を再生して日本文化を伝えることで、日本に興味を持ち、訪日のきっかけとなることを期待している。

内山さんはこのプロジェクトの情報提供や人材育成面で協力している。「海外の日本庭園を存続させるには、維持管理できる人材を育てることが重要です。私は発起人の一人として2012年に北米日本庭園協会を立ち上げ、技術支援に関するネットワークを作りました。またポートランド日本庭園では、インターナショナルジャパニーズガーデントレーニングセンターを開講し、庭園の設計、施工、管理の実技演習にとどまらず、茶道や華道を通じて日本の心を伝えています」と話す。

国のプロジェクトや内山さんの活動により、美しく整備され直した庭園が増えれば、日本庭園への注目はさらに高まるだろう。「日本庭園の持つ優れた文化性、芸術性を訴え過ぎると、敷居を高く感じて足が遠のく人がいるかもしれません。文化性、芸術性への訴求も大事ですが、人間の喜怒哀楽を優しく受け止め、癒しを得られる場であることを伝え、さらに多くの人が気軽に訪れて欲しいと思います」と内山さんは語る。

(脚注)
※ LEED(Leadership in Energy and Environment Design)認証
米国の非営利団体「グリーンビルディング協会(U.S. Green Building Council)」が開発した、建築や都市の環境性能評価システム。
カテゴリー別に必須項目と選択項目があり、必須項目の要件を満たすことで認証を得ることができる。