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Highlighting JAPAN

 

50代からの暮らしづくり

エッセイスト・画家として著名な玉村豊男さんは現在、信州に在住し、ワイナリーやレストラン経営も行っている。人生の後半で見つけた新しい暮らし、働き方や人生訓、そして「これから」についてお話を伺った。

エッセイスト兼画家の玉村豊男さん(73歳)は、38歳の時に東京から軽井沢へ、45歳の時に長野県東御市に移住した。東御市への移住は厄年で経験した大病がきっかけだったという。「もう少し田舎で野菜でも作りながらのんびり暮らそう」、妻である抄恵子さんからの提案だった。

購入した3500坪の土地で、最初は抄恵子さんの要望だった野菜やハーブを育てていたが、余った斜面部分に自分達が飲むワイン用の葡萄を作るために500本の葡萄の木を植えた。色々なワイン工場を訪ねたり、専門家のアドバイスを受けたりして知識を増やし、試行錯誤を繰り返す。そして6年目、ほぼ独学ながら自分達で作った葡萄を酒造メーカーに醸造してもらう形で、最初のワインが完成した。「初めて口にしたときは感無量でした」と玉村さんは回想する。

その後、酒造メーカーの「ワイナリー建設事業」に参画し、東御市へと誘致する。メーカーの技術者が葡萄作りを体験できるよう自分の畑を開放するなど尽力した。しかし、計画は途中で頓挫してしまう。結果、拡張した畑や、ワイン造りに情熱を燃やした若き技術者が残った。「自分がやるしかないと思った」と玉村さんは言う。そこから資金作りに奔走し、抄恵子さんを説得し、2003年に果実酒製造免許を取得、『ヴィラデスト ガーデンファーム アンド ワイナリー』をオープンした。

ワイン作りは、その過程にある無数の選択が、出来に微妙な影響を与えていく。その奥深さが魅力だと言う。「葡萄はフランスの産地のように水はけが良い乾いた土地じゃないと無理だ」とも言われたが、固定観念に捕らわれないチャレンジ精神も幸いし、3年目のワイン(2005年)が洞爺湖サミットで提供され、5年目(2007年)で国産ワインコンクールの最高金賞を受賞するなど、玉村さんのワイナリーは軌道に乗っていった。併設されているレストランも、2015年に設立したワイナリー経営を教える学校『アルカンヴィーニュ』も順調である。
「農業はやればできる。多少の失敗をしても植物には想像以上の生命力があるので、最後は高い確率で実を結ぶ。ワイン造りも同様です。秘けつは十人十色で、その土地に合ったワイン造りの答えがきっとあります」と玉村さんは語る。

「僕は綿密な計画を立てて動く性分ではありません。何かが起こった時にまずは動いて壁にぶつかる。広くてどこを通れば良いか分からなかった道も、壁にぶつかることで通るべきところが分かる。そんな風に生きています」と玉村さんは笑う。

「今、村に宿泊施設などを作る話があります。できれば民泊も利用して、観光客にも村の中に入ってもらい、人と人との交流を図れたらと思います。空き家も増えてきているので、そのうち若い人たちがそこを活用したものづくりでもやってくれたら嬉しいですね」と、これからの事も語ってくれた。

玉村さんは50代の時に生き方を大きく変えた。はたから見るとそこには苦労がある。ただ、「今日が楽しければ明日もきっと楽しい」という考えが、常にそこにはあった。今を楽しむ姿勢がこれからもアイデアや工夫を生み出し、彼の暮らしを作っていくだろう。