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Highlighting JAPAN

 

 

日本らしさとつながる北欧家具

近年、北欧文化への注目が高まり続けている日本で、根強く人気なのが北欧家具である。温かみがあり、シンプルで美しい木製家具の数々に、多くの人が惹きつけられるのはなぜだろうか。世界的に著名な椅子研究家で、北欧文化にも造詣が深い織田憲嗣さんに伺った。

冬が長く、夏は夜でも明るい白夜が見られる北欧諸国の気候は、人々の木工技術を高めた理由の一つだと織田さんは言う。「北欧では、家の中で長く過ごすからこそ、その時間を豊かにしようと考えられてきました。また、資源に恵まれないことから、身近な材料を活用し、自分たちで作ってきたため、木工芸や手工芸が暮らしに根付いたのです」と説明する織田さんは、希代の椅子研究家である。1350脚余りの椅子を始め、多くの家具や日用品、資料など、約50年にわたって集められた物は「織田コレクション」と呼ばれ、各国からも高い評価を受けている。

高い木工技術から生まれた北欧家具を日本人が好む理由について、織田さんは「北欧と日本の人々は価値観が近いから」と分析する。「木などの自然素材を好むことや、質素、簡素を重んじ、素材の持ち味を活かして華美な装飾を好まない点は、良く似ています。こうしたことがアイデンティティとして、それぞれの遺伝子に刻まれているのでしょう」と、織田さんは語る。また、木工技術の高さも共通項の一つである。「日本には、くぎなど一切使わずに作った指物(さしもの)と呼ばれる家具があります。異なる樹種を組み合わせても、誤差なく収まる高度な加工技術は、素材を知りぬいた上での加工によってはじめて生まれるものでしょう。北欧の建築や家具の分野からは日本の宮大工や数寄屋大工のもとに修業にやって来るケースも多くあります」と、織田さんは言う。

こうした日本の木工技術は、時に北欧にも影響を及ぼした。例えば織田邸にある、キャビネットである。1930年にデンマークで作られた物だが、扉の開閉を観音開きではなく日本独自の引き違い式とし、持ち手部分には日本のたんすに見られる金具が使われている。「現代でも、日本の影響を受けた北欧家具は存在します」と言う織田さんが例として見せてくれたのは、デンマークのデザイナーが手掛けた椅子たちだ。

「着物の襟をモチーフとしたエリ・チェアは、現代作家のハンス・サンゲーン・ヤコブセンがデザインしたものです。日本に滞在した経験がある彼は、正座をしても足がしびれにくい椅子なども作りました。かつて、世界的に有名なデンマークの建築家であり、デザイナーのヴァーナー・パントン(1926-1998)やフィン・ユール(1912-1989)がそれぞれ、タタミチェア、ジャパンチェアをデザインしましたが、彼らと同じように日本の文化を理解し、敬意を持ってくれていると感じます」と、織田さんは言っている。

家具に限らず、木を使って誠実に作られた物に、温かみや懐かしさを感じる人は多いが、この理由を「科学技術が進むほど、人は自然素材を求め、人間的な暮らしがしたいと願うからでは」と織田さんは推察する。一方で、「残念ながら昨今は、ファストな物に侵されています」とも。「買い替え、差し替えの文化となってしまっていますが、人とモノの関係はもっと濃密であるべきです。きちんと作られた物を大事に扱えば、長く使うことができるんですから」と、織田さんは続けている。彼の「木は一生モノどころか、二生、三生モノですよ。多少無理してでも、本当に良いモノを選んでいただきたいですね」という言葉が心に響く。北欧の人々と同じように、木と共生する文化を大切にすることは、古くから木を愛してきた我々の心と暮らしを一層豊かにするはずである。