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Highlighting JAPAN

 

 

盆栽(BONSAI)アートの魅力

鉢に植えた樹木の造形美を楽しむ盆栽は、日本の園芸文化の一つ。1970年代頃より世界的に注目を集め、「BONSAI」人気は高まる一方である。そんな盆栽の魅力や、日本と海外との違いについて、「盆栽の伝道師」として活躍する山田香織さんに伺った。

埼玉県さいたま市にある大宮盆栽村は、日本で指折り数えられる盆栽の町である。この町で盆栽業を営む「清香園」の山田さんによると「盆栽は鉢の中で育てる植物を通じ、自然の一角を切り取って絵のように仕立てていくもの」だと言う。ルーツとなるのは、中国が唐と呼ばれた時代(618年~907年)に生まれた「盆景」とされている。これは、植物や石などを盆の上に配して自然の風景に見立てる伝統芸術で、「もともと樹木信仰の強い日本人と、風景を見立てた樹木を身近に置くことが合致したのだと思います」と、山田さんは語る。

盆栽には様々な魅力があるが、その一つが「樹木による表現」である。「樹木で表現することは、まるで絵を描くように楽しいものです。また、どうすればもっと元気になるのか、実が付くのかなどと考えながら育てる園芸的な面白さもあります。このほか、生物との暮らしが楽しいと感じる人も多いようです。まるでペットのように、愛着を持って“うちの子”と呼ぶ方もいらっしゃいますよ」と、山田さんは分析している。

そんな盆栽に対し、「海外からの注目度が高まっている」と山田さんが実感したのは、ここ10年間ほどのことだ。昨今は清香園にも、欧米やアジア、中東の国々から1日に2~3組の海外ツーリストが訪れていると言う。彼らが作る盆栽からは、国ごとの傾向も垣間見える。「盆栽にはそれぞれの人が持つ原風景が表されるので、例えば南アフリカなら、日本では見られないバオバブの盆栽があります。また、中国では大きなものが人気で、まるでバスタブのような鉢が使われたりもします」と、山田さんは言う。

一方、日本の盆栽は「引き算の美学」である。以前、スペイン人の方に山田さんは、「日本の盆栽は“クレイジーだ”。どうしてあんなに小さくて浅い鉢を使うのか」と問われたことがあった。「その方はそう仰っていましたが、小さく凝縮し、そぎ落としていくムダのなさは日本人の感性であり、美意識だと思います。そうやってそぎ落としながらいかに表現していくかが、海外の方にはかっこよく見えるのかもしれませんね」と、山田さんは語っている。

国内外を問わず人気の高い樹木は幾つかあり、ヒノキ科の「真柏(シンパク)」もその一つである。日本では王道、海外でも非常に好まれており、白く枯れた幹の神秘的な様子に心を引かれる人は多いと言う。一方で、初心者にもおすすめなのが「彩花(さいか)盆栽」であると、かねてより「盆栽をもっと身近に感じていただきたい」と願っている山田さんは語る。鉢の中の樹木1本で表現するのは難しく感じる人もいるが、樹木だけでなく、草や花も寄せ植えのように植える「彩花盆栽」は、鉢の中で庭をつくるイメージで作っていくもので、費用も抑えられて気軽に始められるそうだ。

山田さんは、こうした「彩花盆栽」を始めとした盆栽の楽しさを、「もっともっと多くの人に広めていきたい」と考えている。江戸時代(1603年~1867年)の末期より創業した「清香園」の5代目として、「小売業主体のままではなく、新しいことを生み続けることも必要」だと言う。「伝統を守っていくことは大事ですが、いずれは飲食業をからめるなど、盆栽を中心とした環境づくりも広く行っていきたいですね」と、山田さんは語っている。こうした人々たちの尽力もあり、日本で、そして海外でまた新たな盆栽文化が生まれていくのだろう。