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Highlighting JAPAN

 

多様な人の交流で育むワクワクに満ちた町

徳島県の山あいにある神山町はこの60年で人口が約4分の1に減少した。しかし、人数は増えなくても多様な人々が集う町にしたいと、同町のNPOグリーンバレー前理事長の大南信也さんは言う。その町づくりへの思いを聞いた。

IT企業等のサテライトオフィスを誘致し、アーティストが滞在して作品を制作する「KAIR(神山アーティスト・イン・レジデンス)」を開催するほか、3Dプリンターも備える工房では町に定住したクリエイターから近隣の高校生までが物づくりに励む。神山町は町内外の多様な人材が活躍できる場を設け、町の文化や経済を豊かにする試みで全国に知られる。

これらを支援したのが「国内外の多様な知恵を融合させ、持続可能な地域づくりへ」を掲げるNPOグリーンバレーで、近年は移住希望者向けに町立の賃貸住宅が建設されたり、フレンチやピザの料理店がオープンしたりと、新たな町づくりの動きはNPO以外にも広がったと同町出身の大南さんは言う。

「町は人口も経済も右肩下がりで、仕事を得るには大都市に出るしかない状況でした。しかし今は、神山町に来た人たちが町の良さを生かしながらIT企業勤務やフレンチレストラン経営などを実現する様子を見て、『ここであれば自分たちも自分らしい働き方ができるんやないか』と、活躍の場を神山町に求めて町外から帰郷する人も増えると期待しています」

アーティストやクリエイターに加え、ITほか各企業の従業員、農業やサービス業に従事する人々など、価値観の異なる人材の交流が新たな可能性を育む。大南さんはそういう誰もがワクワクできる場が暮らしやすい町ではないかと語る。

大南さんの活動の原点には、1927年にアメリカの児童から日本の児童へと日米親善のために贈られた人形を、1991年に寄贈者の元へ一時帰国させた経験がある。このことで、人とつながり、一歩踏み出すことで、新たな可能性を実感したと言い、その後も国際交流を軸とした地域活動を進めてきた。徳島県内の学校で英語指導助手を務める外国人の研修を受け入れた際は、民家を宿泊先として町の人との交流を図るようにした。

「それのアート版ともいえるKAIRでは、国内外のアーティストが空き家に一定期間泊まり込んで創作活動に没頭します。この様子を町の人が見て、アーティストとも交流しつつアートに親しむなど、多様性を楽しむことから町の文化的豊かさが生まれると思うのです」

やがて町に定住を希望するアーティストも出てきたことから、仕事を持つ人の移住も促そうと始まったのが「ワーク・イン・レジデンス」で、企業のサテライトオフィス誘致はこのような人と人とのつながりの延長にある。2010年に東京のITベンチャー企業が古民家を改築したサテライトオフィスを開設したのに始まり、2018年には同町にオフィスを置く企業は16社となった。前出企業の社員からは「長時間通勤などのストレスがない環境で、本社や海外の取引先と問題なく仕事ができる」「多様な部署がサテライトオフィスで宿泊ミーティングを行うため、そうした人との交流も自分の刺激になる」など高く評価する声が聞かれた。

NPOグリーンバレーのポリシーは、やりたいことがある人と実現を手伝える人とをつなぐことだと大南さんは言う。しかもお遍路さんをもてなす『おせったい』文化が残る同町は、KAIRや企業誘致などの経験が重なり、新しさを受け入れる風土が育っているのも強みで、同NPOが言う「クリエイティブな田舎」の可能性は今後更に広がるはずだ。