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Highlighting JAPAN

 

美しい列車で1000年超の歴史と地元の温かいもてなしを愉しむ

香川県と徳島県をまたぐ「四国まんなか千年ものがたり」は、山を越え、川に寄り添い3時間近くかけて、地元の幸の食事を楽しみながらゆったりと旅する美しいたたずまいの観光列車である。

JR四国の「四国まんなか千年ものがたり」は、香川県の多度津駅と徳島県の大歩危駅の間を運行している。名称は、四国地方の中央部を縦断する土讃線を走り、沿線には金刀比羅宮や善通寺といった1000年以上の歴史を誇る寺社仏閣などがあることを由来としている。

3両編成となる列車のデザインコンセプトは、「日本のたたずまい」と「四季の移ろい」である。外観は左右で異なっており、1号車は緑を基調とした「春萌(はるあかり)の章」、2号車は片側が青い「夏清(なつすがし)の章」、もう片側が白い「冬清(ふゆすがし)の章」で、3号車は赤の「秋彩(あきみのり)の章」と呼ばれている。ちなみに、2号車の「冬清の章」側の車体は、駅の構造上、多度津駅と大歩危駅以外の駅では見ることができない。

内装は、古民家がモチーフである。内張材に徳島産のスギ材パネルを使ったほか、窓の上を民家の軒先に見立てて傾斜を設けたり、囲炉裏の上にある火棚をイメージした格子状の天井を採用したりと、見所にあふれている。デッキには、香川漆器の菓子器や徳島の美馬和傘などの展示コーナーや、大谷焼の洗面台が設置されている。また、各テーブルには讃岐のり染め(多度津~大歩危)や阿波しじら織り(大歩危~多度津)のランチョンマットが敷かれ、人間国宝山下義人さんによる酒器で飲める地酒セットが用意されるなど、四国の伝統工芸品に直接触れられるのも特徴である。

運行は金・土・日曜日と祝日のみ、1日1往復である。食事は予約制で、多度津〜大歩危では洋食、大歩危〜多度津では和食が提供される。どちらも地元の料理人が、その土地の食材にこだわって腕を振るったメニューである。沿線には名所が様々あるが、前述の金刀比羅宮は是非とも訪れたい。「こんぴらさん」と呼ばれ親しまれるこの神社は、古より日本各地からの参拝客を集めてきた。創建年こそ不明だが、1001年には既に社殿を改築した記録が残っている。参道口から御本宮までは785段、奥社までは1368段の石段を行かなくてはならず、無理は禁物だが、上りきった時の爽快感は格別である。また、始発着駅の大歩危駅付近には、2億年の時を経て作られた渓谷、大歩危峡があり、車窓からも美しい眺望が楽しめる。

「四国まんなか千年ものがたり」に乗って車窓を眺めていると、地元の人々が笑顔で手作りの旗や手を振ってくれる。停車駅の一つ、阿波川口駅ではたぬきの里にちなみ、たぬきのふん装で降り立った乗客を熱烈に歓迎してくれたりもするが、「いずれも皆さんが自主的に行っていること」と語るのは、JR四国千年ものがたり企画室室長の蔦利次さんである。乗客からは「地域の皆さんの歓迎ぶりに感激した」という声も多く、感極まって涙を流す人もいると言う。「我々ができるのは車内サービスだけで、できないことをやってくれるのが地域の皆さんです。彼らの協力なしに、今の『四国まんなか千年ものがたり』はできませんでした」と、蔦さんは語っている。近年は海外からの乗客が増えているため、英語対応もかなり行き届いているそうである。1000年以上前から続く歴史と人の温かさに触れたいなら、「四国まんなか千年ものがたり」の旅はうってつけだろう。